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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.30:危機管理 - 対処マニュアル

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文:リュウ・タカハシ
イラスト:Ryoko
2011年8月10日



■ 早朝エクササイズ ■

 こんにちは、ガイディング研究所へようこそ。研究員のリュウです。

 「ネイチャーフォトグラファーへの道 六歩目」にも書いたことあるんですが、小さな頃から寝つきが異常に悪く、いったん寝たら最期、今度は死ぬまで起きない自律神経失調症、早起きなんて命に関わる体質、のはずでした。
 が、「睡眠時間はいっしょ」で「生産性6倍」って読んだとたん「やってみっか」と思っちゃったんですから、恥ずかしいほどの単純さ......。

 ◎誠 Biz.ID「朝シフト仕事術: 生産性を6倍上げる"朝"は未開拓の資源だった!」
 ◎誠 Biz.ID「朝シフト仕事術: 朝から逆算して1日を丸ごと前倒しする」

 で、その単細胞、記事読んだ翌日から5時に起きるだけならまだしも、なんと毎朝ジム通いしてんですからお釈迦様もビックリだ。しかも早起きと同じくらい苦手なランニングまでやってんですもん、まさに人生一寸先は闇ともうしましょうか(だんだん芝居がかってきた)。

 毎日だと膝が悪化するかと思いきや逆に好調。朝から運動したら仕事中スタミナ切れるかと思いきやむしろ疲れにくい。身体ってやっぱ朝の方が効率よくできてんですね。おそるべし早起き、おそるべし早朝エクササイズ。今までどれだけ損してたんでしょう???
 しかしいつの間に自律神経失調症治ってたんだ???



■ 対処マニュアル ■

 研究発表vol.28:効果的な訓練とは? - 危機管理「対処」は、対処ステージのスピーディな行動は、脳トレがポイントだって話でした。パニックや正常性バイアスに強い冷静な脳ミソ、非常時に的確な判断を下せる脳ミソ、想定外の事態にも応用力を発揮する脳ミソは、訓練で作り上げることができます。

 よし、訓練したぞ! これで安心! 絶対に大丈夫!

 ホントに?
 僕は原発推進派じゃなくてアウトドアガイドですから、「絶対大丈夫」なんて信じません。自分自身だって100%は信用してませんよ。訓練積んでても正常性バイアス起こすかも。現場の惨状が僕の判断力・応用力をはるかに上回るかも。不慣れな場所で被災するかも。

 訓練だけじゃ安心できませんね、バックアップが必要です。
 というわけで、対処マニュアルの巻です。



■ 予防マニュアルとの違い ■

 研究発表vol.24:危機管理「予防」の流れ その1と、続くvol.26:同 その2 で、「予防マニュアル」についてお話ししました。ザッとまとめると、以下のような感じです。

  1. ハザードリストを作成
  2. リスト内の個々の項目を優先づけ
  3. 優先度の高いものから予防策を練ってマニュアル化
  4. エスケープルートを常に意識
  5. ガイド自身の安全を意識

 さてさて今回は、ちゃんと予防してたにもかかわらず、不幸にも非常事態に見舞われたときの頼みの綱、「対処マニュアル」です。

 その対処マニュアルって、予防マニュアルと同じく上記の手順で作ればいいのでしょうか?
 こう訊かれると「違う」という答えを予想するのがカシコイ大人。もっとカシコイ人は
「ヘソ曲がりがいうからには、裏をかいて『実は同じ手順です』って答えじゃね?」
と勘ぐるかもしれません。さてどっちでしょう?

 答えはひとまずおいといて、まず両者の違いを考えてみましょう。予防マニュアルと対処マニュアルの決定的な差は、なんでしょう? 答えは10行後、カンニング禁止、制限時間30分、ヨーイドン!











 ハイ時間、正解は「使う状況」です。

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 予防マニュアルは、平時に目を通すもの。一方の対処マニュアルは、研究発表vol.28のネルソン市立図書館の例のように平時に訓練として読むこともありますが、実際に必要なのは文字通り対処ステージ、つまり非常事態発生時です。
 この差をキチンと理解すれば、対処マニュアルの作り方も自然にわかるはずです。



■ ダメな例 ■

 「そんなのは当たり前だ、分かってるよ!」
 そうですかねぇ? その割に予防マニュアルと同じ発想の対処マニュアルが多いような気がしますが。

 例えば。
 アウトドアガイドにとって、熱中症は悩みの種の一つ。特に日本ではツアーが夏休みに集中しますし、暑さも世界指折りなので、ガイドはヒヤヒヤしっぱなしでしょう。僕なら日本の夏は野外活動ひかえますけど、世間様はそうじゃないですからね。ガイドの皆さん、ご苦労様です。
 そこで、ネット上で見つけた「マニュアル」をみてみましょう。

 ◎緊急事態対策マニュアル「熱中症の手当て」

 『緊急事態対策マニュアル』というサイト内コンテンツです。書いたのは医療専門家じゃなさそうですが、なかなかよくまとまってます。

 でも今回のトピックは「対処マニュアル」。もしこのコンテンツが、あなたの職場の対処マニュアルの1ページだったらどうだろう、という視点で考えてみます。

 ツアー中にお客様が熱中症でけいれんを起こしてます。大変だ、マニュアルはどこだ? あったあった。熱中症のページは? あったあった。さて、なになに......。
 そこで出てきたのが、上記コンテンツの印刷だとしたら、けいれん真っ盛り最高潮のお客様の横で読めます? 僕はイラチ(せっかちという意味の関西弁です、念のため)なのでムリです、ムリ、ムリ!

 イラチ向けには、これくらいシンプルじゃなきゃダメっす。

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 違いは一目瞭然です、よね? 違うでしょ? 分かりやすいですよね? ね?

 削っただけじゃなくて、逆に119番、会社、ボスの三つの電話番号はつけ加えてあるのにご注目。
 「んなの携帯に登録してるからいらん。特に119なんか常識だろ。」

 甘いっ!

 応急処置に気をとられて、そういや救急車を呼んでなかった!って、実はよくありがちなんです。だからニュージーランドのファーストエイド講習では、倒れている人を見つけたら「大丈夫ですか? 誰か救急車呼んでっ!」という呼びかけをくり返しくりかえし練習させられます(体育会系訓練が有効な好例)。
 また、たまたま自分の携帯が死んでて誰かのを借りなきゃいけないかもしれません。
 ですから119番も含めて最底限の番号は明記しておくべきです。でもせいぜい二つ三つにしときましょう。

 あ、そうそう、この熱中症のマニュアル例に関しては、一つ大切な注意事項が。
 一般的なマニュアルならこの程度でいいのかもしれませんが、アウトドアガイドは心肺停止の重症まで想定しておくべきですから、「意識はある?」の設問でYes・No分岐するフローチャート式にして、軽症から重症までカバーできるマニュアルにしておくべきです。今回は比較のためにあえて元ネタを踏襲しましたので、その点ご注意を。



■ 惜しい例 ■

 例をもう一つ。

 ◎平成22年度 広島県立呉特別支援学校「火災が発生した場合の行動マニュアル(工事期間用)(案)」

 広島県立呉特別支援学校「危機管理マニュアル」というコンテンツ内の1ページなんですが、あぁっ、これは惜しいっ!!

 フローチャートにしたのはグッドアイディアなのに、まだまだ字数が超多すぎ。うんとシンプルにしなきゃ。
 例えば1番「火災報知器」の右の囲みには70文字もありますが、「発見者」、「火災報知器」、「初期消火」、「事務室へ通報」は、フローチャート内の文言とダブってるので省けます。つまり「周囲に知らせる」のたった7文字ですむんです(しかもこの7文字も、後述のように削れます)。
 この調子で、せめて10分の1にはおさえたいですね。

 あと、このフローチャートは矢印の向きが逆だったり入り組んでたりして見づらいです。上から下(または左から右)に目線が自然に流れ、矢印通りに行動すれば良いデザインにした方が、パニック寸前の脳ミソにはやさしいです。



■ 対処マニュアルをチェックしてみよう ■

 皆さんのところのマニュアルも、「緊急時に半分パニックで目を通すモノ」という前提で、もう一度チェックしましょう。使い物になりますか?

 たとえばやたら分厚い『危機管理マニュアル』の前半が「予防マニュアル」で、途中から「対処マニュアル」になってませんか? 目次から「熱中症」の対処ページを探すだけで一苦労、ページを繰るのに二苦労ってんじゃダメ。

 もっとありがちなのが、先ほどの『緊急事態対策マニュアル』のように、予防マニュアル的手順と対処マニュアル的手順が混在してるパターン。これもダメ。

 あるいは、対処マニュアルに細かい字がずらずらっと並んでませんか? 例えば、

 ◎仙台オープン病院救急マニュアル「熱中症」

 ぐわぁぁ、こりゃ悪夢です!
 もちろんこのウェブページは、プロの手による素晴らしい情報源です。でも自分の職場の対処マニュアルがこんなだったとしたら......。
 この手のは、実際によく見かけますよ。予防マニュアルならOKですが、対処マニュアルだったら失格です。
(作成者土川内科小児科の土川先生からは、こんなに失礼な使い方にもかかわらず、快く引用をお許しいただきました。心よりお礼を申し上げます。)

 そもそも、対処マニュアルってすぐに取り出せるところにありますか? 非常時に探し回るのは最悪ですよ。

 ほとんどの対処マニュアル(アウトドアツーリズム業界に限らず、あらゆる業界を含めて)は、上記のどれかに当てはまるんじゃないでしょうか? 危機管理講習でも同様の質問をしますが、「はい、うちの対処マニュアルは合格です」って声は、残念ながらまず聞けません。



■ 「サルでも分かる」 ■

 これだけダメな例をみれば、賢明なる皆さんにはもう解決策はお分かりでしょうから、以下省略。ってわけにもいきませんので、軽く解説しましょう。

 記憶力の良い方は、研究発表vol.20:危機管理「三つのステージ」の「対処」の項の、

  • サルでも分かる対処マニュアル
  • 連絡先リスト
  • シンプルな指揮系統

を覚えてらっしゃるかもしれません。
 最初の二つが対処マニュアル関連で、極論すればこの2点がポイントです。

 くどいのは承知の上でくり返しますが、対処マニュアルは、理解力、読解力、思考力が下がっている時に読むものですから、「サルでも分かる」が大切なキーワードです。以下、三つの提案にまとめました。



■ 提案1:予防マニュアルと分離して、字数を削る ■

 細かい字がビッシリってのは、パニック寸前の脳ミソには拷問です。とことん減らしましょう。

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 使う場面がまったく違う予防マニュアルと対処マニュアルって、いっしょにする必要あります? ないですよね。じゃ、手はじめにまずこの二つを分けちゃいましょう。非常時に予防手順は不要ですから、前述のごとく予防マニュアル的項目は一切残さず、きれいに分離します。

 対処アクションも、全部書いてたらキリがありません。訓練で身についているはずのことは、省きましょう。
 例えば避難集合場所だとか消防署通報時のセリフなんかは、対処マニュアルに書くべきじゃありません。先ほどの学校の火災マニュアルも、「火事だぁっ!」と叫びつつ火災報知器を押す訓練を徹底すれば、「周囲に知らせる」という7文字まで削れます。
 逆にいえば、訓練不足を対処マニュアルで補おうなんて発想は、論外だというわけです。訓練がメインで、対処マニュアルはあくまでも補助。

 仕上げに「対処マニュアル」とか「○○株式会社○○部○○課作成」とかのお飾り的な文言を、問答無用で削除。後日改訂するときの参考に、作成日付と作成者名は記してもいいかもしれませんが、目立たないよう極小フォントにします。

 できあがった対処マニュアルは、思いっきり目立つところに保管しましょう。たとえばポスターにして壁に貼っちゃえば、おサルさんでも見落としません。

 もしどうしても完全に分離するのがイヤならば、予防マニュアルに対処マニュアルを付記すること。予防マニュアルは少々字数が増えても平気ですから。でも対処マニュアルは、分離独立させましょう。これで安心。
 その逆はもちろんダメです、おサルさんが混乱します。



■ 提案2:必要な部署に、必要な分だけ ■

 「ポスター? どんなでかいポスターだよ!?」
 あ、それって情報過多です。社内すべての対処アクションを書こうとするから肥大するんです。

 一部門に必要な対処マニュアルは、実はそんなに項目多くないはず。アウトドアガイドの仕事は環境的ハザードがやたら多いので、他の仕事に比べて対処マニュアルが分厚くなるますが、それでもポスター一枚に収まらないほどじゃありません。その他の職業ならもっとシンプルに出来るはずですよ。

 統轄部門には全マニュアルをそろえてなきゃいけないでしょうが、各セクションが他部署のマニュアルをそろえるのはナンセンス、混乱の元。不要なものは捨てて、おサルさんにも分かりやすくしましょう。



■ 提案3:図解+連絡先 ■

 限界ギリギリまで字数を減らしたら、残った字をでっかくして、イラストやフローチャートでシンプルにデザインします。
 お手本は、飛行機の座席に備えつけの脱出マニュアル。最近の国際線のマニュアルって、字を使わずイラストだけですよね。あれこそおサルさんにも分かる正しいアプローチ。

 忘れちゃいけないのが、連絡先。
 連絡先リストは巻末別表ってありがちな手法ですが、詳細リストから必要項目を探すのは手間取りますし、前述のように電話連絡そのものを失念するおそれも大きいので、図解の横に二つほど大きく書きこむのがベター。これならおサルさんでもちゃんと電話できます。

 いや、ホントにおサルさんから電話かかってきたら困っちゃいますけど......。



■ 今回のまとめ ■

  1. 「サルでも分かる」が対処マニュアルのキーワードです。
  2. 図解中心。
  3. 文字数は最小、フォント数は最大。
  4. 連絡先は二つほど併記。
  5. ページ数も最小限。
  6. 目につくところに保管。
  7. デザインセンスに難のある研究員リュウは、実は対処マニュアル作成が苦手です。長文は得意なので、予防マニュアルならおまかせあれ。


■ 次回予告&宿題 ■

 次回は、久しぶりにプロとアマチュアの違いを取り上げてみようと思います。以前は概論的に違いをみましたが、今度はもう少し具体的に、仕事に役立つような差を考えてみましょう。
 宿題は、プロとアマの違いを考えておくこと。たとえばカヤックガイドとカヤッククラブリーダー、以前ご説明したように責任に大きな差があるんですが、それ以外に技術的な部分ではどう違うでしょう? 回答例を編集部までお寄せいただけると、泣いて喜びます。研究にご協力を!



■ オマケ ■

【対処マニュアルのピクトグラム習作】

 デザインセンスのないこの僕が、Microsoft Word 2010のお絵かき機能の力を借り、熱中症対処マニュアルのピクトグラム化に挑戦しました。恥を忍んで大公開。

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 う~ん、良いのかダメなのかが自分でよく分からないってところが、センス欠如を如実に物語ってます。

 ならば別バージョン。

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 うん、僕らしくなったぞ。
 熱中症にワイン。これは、たぶん死にますね。あらかじめ呼んでおいた救急車、はたして間に合うか?
 良い子は絶対にマネしないこと。

 ま、とにかく、これでおサルさんにもさらに分かりやすい対処マニュアルが完成しました。めでたし、めでたし(?)

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