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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.19:カスタマーケア 第壱回

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文:リュウ・タカハシ
2010年4月23日



■ プロガイド・ワークショップ 2010 in 西表 ■

 前回(研究発表vol.18)でお知らせしました通り、6月上旬に西表でプロガイド・ワークショップを開催することになりました。

 窓口の西表島カヌークラブぱいしぃず様に、内容やスケジュールの詳細についてのお問い合わせが入ったとのことで、現段階で考えている予定を書き出してみました(予定内容一覧)。

 その後、リクエストをいただいたり、書き忘れてた大事なことを思い出したりしましたので、ここに改訂版をアップすることにしました。

【レスキュー訓練】
◎セルフレスキュー
 ○セルフ排水法数種
 ○ジョン・ウェイン・リエントリー
 ○ミセス・ジョン・ウェイン・リエントリー
 ○スクランブル・リエントリー
 ○パドルフロートもやるか???

 ○リエントリー&ロール(水中でスカート)

◎バディレスキュー - あらゆるバリエーションを試してみる
 ○通常リエントリー
 ○英国式リエントリー
 ○木登り式リエントリー

 ○Tレスキュー排水法
 ○ログロール排水法

 ○シングルからシングル
 ○シングルからダブル
 ○ダブルからダブル
 ○ダブルからシングル
 ○シットオンも必要か???

 ○向かい合ったポジション
 ○同じ向きのポジション

 ○スクープレスキュー(下半身不随)
 ○アブミ
 ○階段式リエントリ

 ○クレオパトラズ・ニードル

 ○オールインレスキュー(ガイドも含めて全員沈脱からのレスキュー)


【トウイング】
◎座学
 ○トウイングの危険性
 ○カスタマーケア上のトウイングのデメリット
 ○トウラインシステム - 最低条件、二種類の使い分けなど
 ○トウイングをやるために必要な最低テクニック、最低装備

◎実技
 ○実際に引っ張ってみる
 ○引っ張られているお客様が沈
 ○引っ張っているガイドが沈
 ○両方が沈
 ○岩場での沈を、トウイングを絡めてレスキュー
 ○水中でトウラインを切断してからロール


【座学 - 危機管理】
◎危機管理理論
 ○危機管理の三つのステージの解説
 ○危機管理マニュアルの作り方 - 予防マニュアルと対処マニュアルの明確な違いについて
 ○人間の盲点、弱点について
 ○シミュレーション訓練
 ○事故の分析
 ○処理ステージ - ヒヤリハット&インシデントレポート、OSHなど

◎西表のレスキューインフラについて
 ○ファーストエイドの重要性
 ○業者同士の互助の重要性

◎危機管理とカスタマーケアのバランスについて討論
 ○ 無理を言うお客様、カヤックツアーの後のスケジュールが詰まっているお客様etc

◎危機管理と経営(儲け)のバランスについて討論
◎ブッキング時の危機管理
◎ガイドが複数いるアウトフィッターの場合、ツアー催行の最終決定権者は?


【座学 - ガイド哲学】
◎ガイドとインストラクターの差異
◎ガイドと冒険家の差異
◎ガイドとアマチュア(ツアーリーダー)との差異
◎ツーリズムガイドとエクスペディションガイド(アドヴェンチャーガイド)との差異

◎ガイドの責任 - ツアー遂行上の責任、社会的責任

◎西表島のプロの可能性について - 世界をリードするガイディングのメッカになりうるポテンシャル


【座学 - カスタマーケア】
◎一般のサービス業と、アウトドアツーリズムの違いについて
 ○「かゆいところに手が届くサービス」と「甘やかし」の関係
 ○ 身体障害者は、「手取り足取り」ケアをしなくてはならないか?
◎サイレントニーズ
◎一万円の値打ち - 一万円あったら、何ができるか?
◎インフォームドコンセントと免責同意書
◎苦情処理


【座学 - グループマネジメント&タイムマネジメント】
◎グループマネジメント
 ○カスタマーケアとのバランス
 ○インタープリテーションの応用
 ○スプリット=プレインシデント
◎タイムマネジメント
 ○ツーリズムのグローバルスタンダードについて

 とりあえずザッとこんな感じのことを考えています。
 ちなみに過去にやったものの、今回はオミットしようとおもっている項目は、以下のようなものです。

◎模擬ツアー
(実際に、素人のお客様を何人かお願いして、ツアーを催行、他の参加者はぞろぞろと着いていき、後から討論)
◎マーケティング
◎ロープワーク
◎調理実習
◎NZ方式のガイドツアーの紹介
◎セーリングのノウハウ
◎サーフランディング
◎パドリングスキル
◎エスキモーロール講習

 なかなか盛りだくさんです。ホントに三日間でできるんでしょうか? きっと無理ですね。いくつかは削ることになりそうです。

 当連載「ガイドの一般教養」ですでにカバーした項目もいくつかあるのに気づいた方もいらっしゃるかもしれませんね。ということは、まだカバーされてない項目も、そのうちここで取り上げる可能性がある、ということです。お楽しみに。



■ 人見知りはカスタマーケアの必要条件 ■

 ちょっと面白い記事を見つけました。

 ◎【エンタがビタミン♪】タモリ意外すぎる告白。「お笑いは人見知りじゃないと無理」。

 時間がたつと削除されたりURLが変更になるかもしれませんから、軽く要約しておきますと、「笑っていいとも!」の「テレフォンショッキング」のゲスト北川景子さんが人見知りだというと、タモリ氏が「実は自分も人見知りだが、お笑いは人見知りじゃないと空気がよめないからやっていけない」とアドバイスした、という記事です。

 タモリ氏が人見知りなのって、意外ですか? 一目瞭然だと思うんですけどねぇ。
 ま、それはともかく、タモリ氏の指摘はガイドにもそのまんま当てはまります。特にNZには人見知りをお母さんのお腹の中に置き忘れてきたような人がよくいますが、こういうタイプはvol.17でお届けした「アイスブレイク」は大の得意です。でも常に相手の顔色をうかがうことの必要なカスタマーケアが、彼らの得意技かどうかは分かりませんよ。
 つまり人見知りはアイスブレイクには苦労しますが、そこを突破すればカスタマーケアで本領が発揮できるはずなんです。シャイな日本人には朗報ですね。

 ちなみに余談ですが、僕はタモリ氏と誕生日が同じです......。



■ 情報はいくらでも転がっているが......。 ■

 さて、そんなわけで今回はカスタマーケアのお話です。vol.8で研究した通り、アウトドアガイドにとっては「サービス」と「ホスピタリティ」を厳密に区別する必要は特にありませんから、ここでは主に「カスタマーケア」という言葉で話をすすめていくことにします。

 日本でもホスピタリティという言葉が数年前から流行し、あちこちでセミナー、ワークショップ、講習、講演などが開かれてますし、本屋さんにもこの手の本はたくさん並んでます。わざわざ出かけなくても、インターネット上にだってごろごろと情報が転がっていますね。
 ですからここでわざわざ細かいノウハウの数々をご披露することもなさそうです。ってなわけで、今回はこれでおしまい、チャンチャン。









 ......。
 そうは問屋がおろしませんね。編集長の青筋が目に見えるようです。ハイ、ちゃんとやりますから、落ちついて落ちついて>森田さん

 確かにアウトドアツーリズムにも、上記のような情報は大いに役に立ちます。
 ところがアウトドアツーリズムには、他のサービス業と違ったちょっとややこしい問題があるんです。今回と次回に分けて、二つの問題をまな板にのせてみることにしましょう。



■ 問題其の壱 - アウトドアの神髄をスポイル ■

 たとえば高級ホテルにしても、高級レストランにしても、カスタマーケアの基本は「かゆいところに手が届く」じゃないかと思います。要求されたことを子細漏らさず迅速に処理するのはもちろん、お客様の要望を先読みして、先回りのカスタマーケアをしてしまう。これですな。
 もちろんアウトドアツーリズム業界でも、基本はまったく同じです。

 とはいえ、アウトドアツーリズムの場合、ホテルやレストランとまったく同じようなカスタマーケアをしていればそれで良いかというと、これが必ずしもそうとはいえないのがややこしいところです。なぜでしょう?

 答えを書く前に、ちょっと考えてみましょう。「アウトドア」という遊びの本質、神髄ってなんでしょう?

 色んな答えがあると思いますが、よく目にするのが「自然とのふれあい」。アウトドアアウトフィッターにも、この手のキャッチコピーを使ってるとこたくさんありますね。

 「非日常体験」ってのもポピュラーな答えかもしれません。これがエスカレートすると「極限体験」を求める冒険家になるんでしょうね。そういえば冒険家って、都市部出身者が多いってのも、なんかうなずけるような気がします。

 もう一つ忘れちゃいけない答えがあります。「不便さを楽しむ」、これですよ、奥さん!
 オートキャンプが流行った頃には、不便さを楽しむ気なんぞサラサラない無粋な連中がカラオケ持参でキャンプ場に大量流入し、本物のアウトドアズマンたちから大ヒンシュクをかっていたそうですが、ブームが去った今は、不便さをちゃんと楽しむ余裕をお持ちの方たちばかりだと思います。

 そう、アウトドアの神髄は、不便さを楽しむことなり。アウトドアガイドが心にとめておかなくてはいけないのは、これです。
 「自然とのふれあい」や「非日常体験」を標榜するガイドはよくいるようですが、そういうのは宣伝文句としては有効ながら、カスタマーケアの理念としてはちょいと力不足、ってのが当研究所の見解です。
 カスタマーケアの屋台骨としていつも意識しておかなくてはいけないのは、むしろ「不便さの楽しみ」です。

 もう話が見えてきましたよね? そうなんです、ホテルやレストランが提供する「かゆいところに手が届きまくり」のカスタマーケアをそのまんまアウトドアツアーで真似したら、アウトドアの神髄をスポイルしてしまう可能性がある、ということなんですよ! なんたる矛盾! これは困った......。

 つまりアウトドアガイドは、「きちんと不便を楽しませてあげる」ということを念頭に置いて、カスタマーケアをしなきゃいけない、というわけです。ここ、試験に出ますんで、赤線引っ張っておくように。

 たとえばシーカヤックツアーの場合、ガイドが抱きかかえるようにしてお客様をカヤックに乗せたりおろしたり、上陸してもお客様には荷物を運ばせないでガイドがセッセと何往復もして調理道具や食材を運び、タープの設営も全部ガイドが一人でやり、もちろん調理もガイド任せ、お客様は上げ膳据え膳どころか、箸の上げ下ろしまでガイドが手伝いかねない勢い、お客様がカメラを手にしたのを目にすると走っていって「写真撮りますよぉ」と取り上げてしまうなんてのが「アウトドアの神髄をスポイルするガイディング」かもしれません。
 まぁ新人ガイドって、だいたい皆こんなもんですけどね。

 白状しますと、かくいう僕も新人の頃は意気込みが空回りしちゃって、こんな風にやたらむやみに走り回ってました。
 でもある日ハタと気づいちゃったわけです。
「こんな風に箸の上げ下げまで手伝うようなカスタマーケアしてたんじゃ、お客様は『アウトドアをやった』ことにならないんじゃないの???」

 確かに高級ホテルもビックリのカスタマーケアを受ければ、お客様は喜びます。アウトドアツアーでそこまでやってもらえると意外性もありますから、なおさらです。
 でも「お客様から達成感を奪」ってしまったんじゃ、元も子もありません。達成感がないとね、すぐに印象が薄れちゃうんですよ。逆に達成感が大きかったら、いつまでも鮮明な思い出として残る可能性が高いですね。不便があってこその達成感です。

 分かりやすい例が、トウイングです。
 トウイングっていうのは、ガイドがお客様のカヤックに綱つけて引っ張って行っちゃうことです。レスキュー技術の一つですね。
 新人ガイドは、お客様が疲れを見せたら即「引っ張ってあげましょう!」ってトウイングしちゃう傾向がありますが、これ、大間違いです。
 ガイドは親切心でやってるんですが、引っ張られる当のお客様の身になってみてください。他のお客様は自力で漕いでるのに、自分だけ遅れて皆に迷惑をかけたあげくに、一人だけ引っ張られてる。こりゃあまり気分の良いもんじゃありません。そう、達成感を奪ってしまうんです。ここまで考えないと、本当のカスタマーケアじゃありませんね。

 料理だってそう。お客様の手をわずらわせないのが正解とは限りません。お客様に手伝ってもらってワイワイガヤガヤ料理した方が、満足度が高くなることだって珍しくありません。こんなの、ホテルには逆立ちしても真似のできないカスタマーケアですよね。

 こういういことに気づいたとき、僕の本当のカスタマーケア修行が始まったわけです。

 ちなみにホテルやレストランで「当店では不便さを楽しんでいただきます」なんて宣伝してるとこがあったら、一度のぞいてみたいので、ぜひ教えてください(怖いものみたさ)。ラーメンをフォークとナイフで食わされたりしたら、研究員リュウは暴れてしまうかもしれません。



■ 今回のまとめ ■

  1. アウトドアの神髄は、不便さを楽しむことです。
  2. 過剰に至れり尽くせりのカスタマーケアは、アウトドアの神髄をスポイルします。
  3. お客様の達成感をよく考慮しましょう。
  4. 研究員リュウとタモリ氏は、誕生日が同じです。
  5. 故岡田由希子さんも同じ日でした。美女と野獣の日なのでしょうか?


■ 次回予告&宿題 ■

 次回は今回の続きで、問題其の弐をとりあげようと思っています。
 が、ひょっとしたら危機管理の核心部、理論編に入っていくかもしれません。う~ん、どっちにしようかな。
 とりあえず宿題は両方出してしまおう(笑)
 カスタマーケア編の宿題は、ずばり「問題其の弐はどういうものでしょうか?」です。他のサービス業の常識が通用しないアウトドアツーリズム業界の問題点その2を考えてみてください。
 危機管理編の宿題は、「危機管理の三つのステージは何でしょう?」です。これは簡単ですね、過去の研究発表の中に出てきてます。答えられない方は、ちゃんと復習しておいてください。
 回答例を編集部までお寄せいただけると、泣いて喜びます。研究にご協力を!



■ オマケ ■

 今日のオマケは、思いっきり本文と関連したことです。
 いろいろとえっらそうなこと書いてきましたが、不便を楽しませるカスタマーケア、あるいは自然やアクティビティの魅力をひきだすカスタマーケアってのは、ホントに難しいです。僕自身も「上手くいった」と思えるツアーは、数えるほどしかありません。日々修行、日々勉強です。

 そんな中、手前味噌で恐縮ですが、かろうじて上手くいった例を過去ログの中に発見しましたので、ちょっとご紹介しておきます。

 ◎Ryu's Logbook 2004年10月14日「トウイングについて(前編)。」

 ものすごい長文ですが、先ほどあげた「トウイングをあえてやらないことによって、お客様に達成感を味わっていただく」というテーマでガイディングした例が、だいたい真ん中あたりに出てきます。
 文中にも書いてありますが、そのツアー自体の記録はこちら。

 ◎Ryu's Logbook 2004年9月2日「尻拭いの日?」

 ご参考になれば幸いです。
 っつーか、いつもこんな風にうまくいくといいんですけどねぇ......。

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