テーマ [ガイディング研究所]
ガイドの一般教養講座 研究発表vol.8:サービスとホスピタリティ その3
文&コラージュ:リュウ・タカハシ
イラスト:Ryoko
2009年8月13日
こんにちは、研究員のリュウです。
そろそろ暖かくなってきました、いやぁ春だぁ、気持ちいいなぁ。
なんて書くと、猛暑のジャパンから焼け石が飛んできそうですが、ホントに気持ちが良いんだから仕方ありません(って、火に油を注いでみる)。
日本とニュージーランド(NZ)は季節が反対ですが、ちょうど半年ずれるわけじゃないのが面白いとこ。こちらの一番暑い月は1月で寒いのが7月。日本は8月と2月ですから、7カ月(あるいは5カ月)ずれる計算です。なぜでしょう?
■ ちゃぶ台は、なんのためにあるのか? ■
前々回でサービスとホスピタリティの通説に意義をとなえ、前回は当講座流の定義をご紹介しました。長い道のりでした。
で、三回目の今回は、いきなりちゃぶ台をひっくりかえしちゃいます。スミマセン。そう、ちゃぶ台はひっくり返されるために存在しているのです。リュウ・星一徹・タカハシに改名しようかな。
■ カスタマーケア ■
僕の古巣では、実のところ、サービスとホスピタリティの二つの言葉はほとんど使われてません。僕の元同僚たちにきいても、この二つの言葉の定義を言えるヤツなんてまずいないと思います。
エイベルタズマン国立公園の他のアウトフィッターはもとより、NZのアウトドアツーリズム界なら、おそらくどこも大同小異だと思います。
ほぉら、ちゃぶ台がひっくり返りましたよ。
じゃぁ僕らが接客をどう呼ぶかといいますと、カスタマーケアです。
前々回のオマケにちらりと書きましたが、僕の古巣は春のスタッフトレーニングのメニューの一つとして、フライトアテンダント訓練官を招いて接客訓練もやってました(経営者が変わったので、今はやってません)。つまり僕もスチュワーデスさん達と同じ訓練を何度も受けてるんです、エッヘン。って、それはどうでもいいんですが、その授業の名前もやっぱり「カスタマーケアトレーニング」でした。
なぜサービスやホスピタリティかを使わないかというと、
「なにぃ、サービスとホスピタリティの違いだぁ? しゃらくせぇや、んなこと知ったことかっ! お客様満足させりゃいいんだろうが、つべこべいってやがると、尻小玉引っこ抜くぞ、べらぼぉめぇっ!」
ってなとこじゃないかと思います。
翻訳すると、
「現場で接客するときには、サービスとホスピタリティを区別する意味なんかない。一所懸命接客して、お客様に喜んでいただければそれでいいのだ」
って意味です。
これ、現場でお客様に接している人間の本音です。
ですからそういう区別を意識しないで気軽に使える一般用語カスタマーケアが多用されるんだと思います。僕自身も、この言葉が一番シックリきます。
さらに大事なことは、危機管理の存在です。現場で大切な二本の柱は「危機管理とカスタマーケア」です。それに対して「サービスとホスピタリティ」なんてのは、二本柱どころか、どっちがどっちでもぜんぜん構わないような些末なんです。ですから両方をまとめたカスタマーケアという言葉の方が便利なんですね。
ちなみにカスタマーケアを和訳すれば、「接客」でしょうね。ホントに何気ない言葉です。
■ 違う立場で ■
サービスとホスピタリティを定義してきちんと区別する必要があるのは、現場で接客している人間(=ガイド)じゃなくて、もう少し上のレベルの役職、たとえば商品開発、顧客満足管理、ガイド統括なんかの仕事をしている内勤のホワイトカラーじゃないかと思います。
日本の場合は、アウトドアツアーを運行しているのは家族経営レベルの小企業がほとんどでしょうから、現場に出るガイド業と、内勤ホワイトカラーを兼ねる人が多いのが現実だと思います。というわけで、ついでにそのレベルからみたサービスとホスピタリティも定義しておきましょう。現場のガイド業しかやらないって人には、あまり関係ないですから、飛ばしちゃってもいいです(僕も本来は現場一本槍の専業ガイドなんで、飛ばしたいとこなんすけど)。
【サービス】
商品開発の仕事。
充実したサービスには比較的費用がかさむが、金さえかければ短時間で質の向上が期待できる。つまりサービスとコストには、比較的明確な相関関係がある。
ただしマニュアル過剰は、現場の接客担当者の負担を増やして逆効果になる場合もある。
【ホスピタリティ】
現場の接客担当者の仕事。
個人の資質や技量におうところが大きく、統一したり短時間で充実をはかるのは困難。一般に、質の向上には時間がかかる。
その代わり職場の雰囲気改善などによって、さほど費用をかけないでレベルアップすることも可能で、サービスに比べるとコストとの相関関係は弱い。
こう考えてみると、サービス提供者側でもホスピタリティが最近もてはやされている理由が、ちょっと見えてきたような気がしませんか。高級感を演出するサービスには金がかかるが、温かい雰囲気を演出するホスピタリティなら、必ずしも金をかけなくても実現できる(かもしれない)、というわけです。
ところで面白いことに、前々回書いた「サービス=無料 or 割引」という世間の常識って、この定義とは反対です。
確かに無料サービス、割引サービスというのは、よく使われる手法ですが、でもこれって「サービスの手段」というよりは、むしろ「マーケティングの手法」ではないか、というのが当講座の見解です。
■ もう一度現場レベルで ■
NZでカスタマーケアという言葉が多用されるのは、これ以外にももう一つ理由があるような気がしています。個人的な印象にすぎませんが、サービスでは意味が広すぎて曖昧、逆にホスピタリティでは意味が狭すぎて不便、と感じます。
詳しくはまた後日研究しますが、接客業の中でも危機管理の比重が特に大きいアウトドアガイドの場合、温かくもてなせばそれで良いかってぇと、残念ながらそうもいきません。アメとムチを使い分けます。
そこで、ムチも含められるような、ホスピタリティより意味の広い言葉が欲しい、でもサービスだと意味が曖昧すぎる、その中間の言葉は......、という感じでカスタマーケアが定着したんじゃないかなぁと推測してます。
もしこれが正解なら、前回ご紹介した当講座の定義、英語圏でも通用するということですね。スゴイじゃん。
意味の広い方から並べると、こんな感じです。
プロダクト>サービス>カスタマーケア>ホスピタリティ
当講座でも、一般的な意味では汎用性の高い「接客」または「カスタマーケア」という言葉を使い、厳密に区別する必要があるときだけ「サービス」や「ホスピタリティ」を使うことにします。
ってなわけで結論。ながながと論じてきましたが、現場のガイドにとっては、サービスとホスピタリティを区別する意味はあまりありません。机上の空論、言葉遊びに近いというのが本音です。そんなことするヒマがあったら、しっかりカスタマーケアしてお客様に喜んでいただきましょう。
■ 今回のまとめ ■
- シーカヤック界のハリウッドでは、接客はカスタマーケアと呼ばれています。
- ホワイトカラーには、サービスとホスピタリティを定義づけする意味があります。
- 現場のガイドは、そんなこと知ったこっちゃありません。カスタマーケアに精を出しましょう。
- ちゃぶ台は、ひっくり返されるために存在していましたが、絶滅しかかっています。保護しましょう。
■ 次回予告&宿題 ■
さて、次回の研究発表は、危機管理序章です。
危機管理ってのは本当に広く深いテーマでして、この「ガイドの一般教養講座」の中だけではとてもカバーしきれません。ですから将来的には独立した連載も考えているのですが、かといってここでふれないってわけにもいきません。できる範囲内で当講座でもとりあげていこうと思っています。
「日本人は危機管理が弱い」といわれますが、じゃぁ具体的に何がどう弱いんだろう?ということを考えてみましょう。これが次回までの宿題。もちろん編集部まで回答をお寄せいただけると、もっとうれしいです。研究にご協力を!
ではまた!
■ オマケ ■
前々回の「名前の覚え方 其の壱」では、記憶定着にはひたすら連呼と書きました。前後しますが今回はその前段階、「まずどうやって名前を頭にいれるか?」がテーマです。
お客様到着直前に、顧客名簿をチェックします。なになに、田中、佐藤、後藤、岡村、西川、平、小林の7名。
僕は今、わざと何も考えず、指まかせに七つの名前をでっち上げました。ところが順番も含めて頭に入っちゃいました。渡された名簿でも、8名以下だったら一回チラっとながめればだいたい覚えられます。ガイド脳です。
世の中に記憶法は多々ありますが、ほとんどは連想を利用したものです。僕がよく使ってた「有名人に関連づける方法」をご紹介しましょう。
名前を聞いた瞬間、有名人を思い浮かべてください。たとえば、田中とくれば角栄、佐藤とくれば栄作。別に麗奈と珠緒でもかまいませんし、顔がはっきり思い浮かぶなら、友人知人親戚でもOKです。
さて僕の頭の中には田中角栄、さとう珠緒、ゴクミ、ナイナイ岡村、西川のりお、平忠彦、小林まことの七人の顔が、この順番にズラリと並んだわけです。なんでそういうメンツなんだと突っこまないように。
この作業、慣れれば名前を読み流すだけとほとんど変わらない短時間でできるようになります。
もし順番も覚えたい場合は、田中元首相が珠緒ちゃんに抱きつき、珠緒ちゃんがゴクミに鉄拳を入れ、ってな図を想像すれば簡単です。コツは、なるべく派手な変な場面を想像すること。田中元首相が珠緒ちゃんに話しかけ、珠緒ちゃんがゴクミに話しかけ、っていう図だと忘れます。ナイナイ岡村がのりお師匠の耳に噛みつき、かまれた師匠が平忠彦のバイクを蹴り倒す、ってな絵柄なら忘れません。
ガイドの場合、普通は順番まで覚える必要はないでしょうけど。
事前にここまで準備しておけば、あとは楽勝。いよいよお客様をお迎えしたら、目の前の田中さんの顔と田中角栄の顔を無理矢理頭の中でくっつけます。これも派手な絵柄を想像した方が効果的ですね。
はい、お客様の顔と名前が瞬時に頭の中にファイリングされました。慣れればこれも一瞬の作業です。
いったん頭に入ればしめたもの。あとは連呼で記憶を定着させましょう。
さぁ練習練習。
僕のお客様は9割以上が欧米人でしたが、この方法で大丈夫でした。其の壱のイラストのように、初耳の名前や発音できない名前、読めない名前に苦労したことも数え切れないほどありましたけどね。
コツ:
ムリしてフルネームを覚えようとしないこと。ガイドは学校の先生じゃないんですから、全員のフルネームを書ける必要はありません。
たとえば荻野さんは萩野さんと混同しがちなので、僕なら最初っからファーストネームに狙いを定めます。
先ほどの例だって、佐藤浩二、田中良子、後藤真三、岡村幸恵、西川正、平真智子、小林倫太郎の七人のフルネームを漢字ごと覚えろといわれたら、どれだけ時間かかることやら。割り切りましょう。
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