テーマ [ガイディング研究所]
ガイドの一般教養講座 研究発表vol.9:危機管理の話に入る前に
文&写真:リュウ・タカハシ
イラスト:Ryoko
2009年9月10日
■ 来週末から ■
久しぶりの日本です。例によっていくつか仕事をこなさなきゃいけないので、その準備に大忙し。
8歳のノートPCはほぼご臨終なので、新調しました。先週月曜に注文し、週末にセッティングするつもりだったのに、手違いがあって届いたのが今週月曜。平日に500GBのHDDのパーティション切り直しをはじめるという不穏なスタートです。
そしたら案の定、USキーボードが日本語キーボードと認識されるおなじみのエラー。さらにPDFファイルの日本語が文字化け。
こりゃあちこちいじるよりVistaにアップグレードした方が早いかもと思ってやってみたら、Vistaでも同じでガッカリ。これで一日完全につぶれちゃいました。
だったらXPに戻してやるわいと翌朝インストールし直したら、キーボードの問題はなぜか解決。PDFはダメでしたけど、まぁ入力に問題がなきゃそれでいいやと、ようやくセッティングを開始したのが昨日の昼過ぎ。こんなことしてる場合じゃないのに......。
新しいPCのセットアップ、大嫌いです......。二日で四回もOSのインストールするのは、もうイヤだ。
■ さて、どうやってはじめようか? ■
新しい場で危機管理の話を切り出すときは、いつも「どういう切り口ではじめようか?」と思い悩みます。
来月の頭に、某県商工会議所青年部の研修会で、危機管理の話をさせていただくことになってます。初のビジネスマン向け講習なので、あーでもないこーでもないとプレゼン資料を書いたり消したりの毎日です。
そしてその翌日は、来年開催される瀬戸内国際芸術祭2010のガイド予備軍対象のガイディング入門講座。ここでも少し違う角度で危機管理を扱うので、やっぱり書いたり消したり。
カヤックの仕事も二本入ってて、それぞれ僕にとっては未知のフィールドなので、危機管理マニュアルも整備しておかなきゃいけません。
さらにこの講座と、一度に五つの危機管理原稿をかかえてる始末です。きっと前世の行いが悪かった報いなんでしょうが、頭がこんがらがって訳わからなくなってきてます。
で、悩んだ結果、この講座は危機管理本題というよりも、それ以前の話から入ることにしました。というわけで、前回の予告では日本人の弱点についてって書きましたが、変更しました。ゴメンナサイ。
■ 日本人には通じにくい ■
悩むのには、理由があります。
僕はニュージーランド(NZ)のカヤックガイドにも危機管理を教えてましたが、彼らが相手だとシンプルです。「事故を防ぐノウハウ」と「事故に対処するノウハウ」を実践的に教えるだけのことで、それ以上でもそれ以下でもありません。
極端なたとえをすれば、「失敗しない料理のコツ50」とか「失敗した料理をレスキューする10の知恵」なんてのと大差ありません。知ってるとちょっとだけ得するお役立ちノウハウですね。あえて違いをあげるなら、危機管理はもっと体系的だってことくらいでしょうか。
ってなわけで、NZでは悩む必要なんて皆無です。
ところが......。
日本で危機管理の話をしようとすると、なぁ~んだか通じないことが多いんです。下手すると、相手が不機嫌になっちゃったり。
僕ってたしか、英語よりは日本語の方が得意なはずなんですが......???
しばらく悩み、考えました。で、ようやく分かってきました。
通じないというよりも、危機管理という言葉にあまり良い印象を持っていなくて、話を聞きたくない人が少なくないらしいんです。
彼らにとっては、危機管理って言葉のまわりに、別の悪いイメージが色々とからみついてるようです。不気味なツタがビッシリからんだ幽霊屋敷のような洋館、といったところでしょうか。
ツタを取り払えば、明るく小綺麗で住み心地のいい家が出てくるんですが。
そのツタの正体を僕なりに考察してみました。
■ ツタの正体其の壱:風評 ■
算数が大好きな太郎クンが有名中学に入学しました。中学の数学も楽しいです。でもクラスメートはみんな超優秀で、彼の成績はいつもビリ。まもなく太郎クンは数学嫌いになりました。
「日本人は危機管理が弱い」っていう不名誉な風評、いつ誰がいいだしたんだか知りませんが、長年こういわれてれば、そりゃ危機管理って言葉も嫌いになりますよね。
ちなみに、僕は必ずしも日本人は危機管理が弱いとは思ってません。詳しくは後述しますが「予防」のステージだけなら、日本人だってけっこう良い線いくんじゃないかとも思ってます。
ま、とにかく、ツタの正体の一つ目は、この風評です。
■ ツタの正体其の弐:文化背景 ■
でも外国のせいだけじゃなさそうです。
NZは褒める文化で、日本は叱る文化です。それぞれ一長一短で、単純に優劣は決められませんが、危機管理に対する態度にも大きく差が出ます。
褒める文化では、失敗は「学びのチャンス」です。また失敗は他人事ではなく、明日は我が身です。ですから他人の失敗に比較的寛容で、危機管理には熱心なお国柄になるようです。
片や叱る文化では、失敗は許されません、当然叱られます。つまり失敗や事故は聞くだけで忌まわしい言葉で、危機管理なんて言葉はモッテノホカ、なのかもしれません。
これが二つ目のツタ。
■ ツタの正体其の参:混同 ■
ワイドショーで、スキー場雪崩遭難事故のレポートがはじまりました。立ち入り禁止区域で起った雪崩に、危険を承知で滑っていたスノーボーダーが巻き込まれ、現在レスキュー隊が捜索中なんだとか。
するとエセ文化人のコメンテーターがえらそうな口調で、
「そんな連中、自己責任なんだから、放っておきゃいいでしょう。レスキューして無駄金使うことはないですよ!」
と一喝。スタジオ中が、「そうだ、そうだ」とうなずく。
おなじみですよね。特に話が通じないのは、こういう人種です。
「自己責任だから放っておけ、レスキュー不要だ」ってセリフ、二重、三重に変です。まったくとんでもないったらありゃしない。
注意しても子供は走り回りつづけ、けっきょく転んで泣き、そこに駆け寄ろうとした母親に、父親が、
「ほらバチがあたった。自業自得だから放っておきなさい、母さん」
と一喝。
こりゃ納得いきます。
でも同じことを、雪崩で埋まった人に言いますか???
しかも、自己責任と自業自得って、ホントはぜんぜん違う言葉です。Wikipediaにかなり詳しく出てますが、すごく乱暴にまとめると、「自己責任」ってのは「自分で責任をとる」っていう意味の法律用語であって、「オマエは自業自得だから、手を貸してやらない」って意味じゃありません。
「自己責任」のスノーボーダーが雪に埋まってるんだったら、なおさら救出すべきです。だって埋まってる人に責任をとる能力なんてないんですから、助け出してきて、金を払わせ、説明させ、謝罪させ、この先ずっと事故再発防止運動に関わらせればいいんです。これぞ自己責任。放っておいて殺してしまうんじゃ、逆に責任を免除してやってるようなもんじゃないですか?
それ以前に、レスキューすなわち危機管理の決定事項に、そもそもなんで自己責任の話題が出てくるんです? 無関係です。苦しんでる人がいたら、自業自得だろうと自己責任だろうと悪人だろうと外国人だろうと貧乏人だろうと、助けるのが当たり前です。危機管理は、万人に平等です。
上記のように責任論は、レスキューが終わってからやるべきことで、順番がアベコベです。
さらに最近はなにごとも自己責任でやりましょう、っていう風潮です。なのに返す刀で、「自己責任で事故を起こしたら、助けてやらないよ」っていうんじゃ、思いっきり矛盾してます。これで自己責任意識と危機管理意識をもてっつったって、そりゃ無理ですよ。
これが三つ目のツタ。あぁややこしい。
■ 実は危機管理は単純です ■
こんな風にややこしいイメージで危機管理という言葉をとらえている人と、単なる実践的安全ノウハウという意味で使っている僕とでは、そりゃ話は通じるわけはないです。
繰り返します。上記のようなイメージは、本来の危機管理とはかけはなれてます。今すぐ忘れましょう。
というわけで、次回からはようやくシンプルに危機管理の話を進めていこうと思っています。
ちなみに将来このガイディング研究所を英語版にするときは、今回の記事はまるごと不要ですねぇ(笑)
■ 今回のまとめ ■
- 日本人は、必ずしも危機管理が弱いわけじゃありません。
- 失敗は、成功の元です。
- 危機管理と自己責任論は、基本的には無関係です。
- 自業自得な人でも悪人でも、レスキューしなきゃいけません。
- もし相手が野人や元カヤックガイドでも、やっぱり一応レスキューしてあげてください。
- つまり危機管理は、知ってると人生得する便利な技です。
- それともひょっとして、僕の印象が悪いんでしょうか?
■ 次回予告&宿題 ■
さて、次回はいよいよ危機管理の本題に入ります。
今回、日本人だって捨てたものじゃないと書きましたが、でもやっぱり危機管理の強い国に比べると、弱点はありますね。その辺も見てみましょう。
というわけで、前回出した宿題をそのまま今回も出しておきます。「日本人は危機管理が弱い」といわれますが、じゃぁ具体的に何がどう弱いんだろう?ということを考えてみましょう。編集部まで回答をお寄せいただけると、もっとうれしいです。研究にご協力を!
ではまた!
■ オマケ ■
【ツアー写真 #001】
このコーナーだけを楽しみにしてくださってる女性読者の皆さん、くだらないオマケでゴメンナサイ。
しかし、こういうのが毎日だったんですよねぇ。図書館でジーチャンバーチャンの相手をする今日この頃、こうしてふりかえってみると、なんともぜいたくな仕事だったんだなぁと、今さら我ながら呆れ果てております。
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