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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.17:アイスブレイク

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文:リュウ・タカハシ
2010年4月4日



■ プロガイド・ワークショップ 2010 in 西表 ■

 3年ぶりにプロガイド・ワークショップ(PGW)を開催する運びとなりました。今回の会場は日本の楽園、沖縄県西表島にて、6月7日(月)~9日(水)の三日間のコースです。少々遠いですが、過去の会場と同じく参加資格は一切不問としますので、どしどしご応募ください。
 今回の窓口は西表カヌークラブ ぱいしぃず様。ボスの近澤さんは、PGW 2005 in 香川にわざわざ西表からご参加くださり、今回は窓口として手を挙げてくださいました。本当に感謝いたします。
 詳細は未定ですが、こちらで告知されていますので、ご覧ください。

 ◎島の風が恋しくなったら「プロガイドワークショップ2010年 西表島会場」



■ アイスブレイク ■

 僕がこの言葉と出会ったのは二十年ほど前、セールスのアルバイトをしていたときでした。書店に英会話スクールがブースを出して、アンケートや懸賞応募を呼びかけてますよね。あれです。そうなんです、僕って悪徳キャッチセールスマンだったんですよ、ワッハッハ。今明かされる衝撃の過去。
 短時間で相手と打ちとけるのがポイントなんですが、それを「アイスブレイク=氷をとかす」と呼ぶと知って、なるほど上手い表現だと感心しました。
 当時は極端にシャイで、見知らぬ人に話しかけるだけで一苦労、相手が女性だと二苦労だったので、結果はさんざんですぐにやめちゃいました。やっぱり悪徳セールスマンにはなりきれない半端野郎でした。今明かされる情けない過去。
 でもこのとき習ったアイスブレイクの基本が、のちにシーカヤックガイドになったときにがぜん活きてくるわけですから、人生って面白いもんです。

 さて、そんなわけで今回はアウトドアガイドに役立つアイスブレイクのアイディア集です。



■ (1) 笑顔、あいさつ ■

 当たり前すぎですが、やっぱりこれが一番大事です。笑顔やあいさつ抜きでアイスブレイクしようたって、そりゃ至難の業です。

 この点キウィ(ニュージーランド人)のガイドは最初から大きなアドバンテージがあるんです。キウィは人なつっこくて誰にでも話しかける国民性だといわれてます。ガイドになろうと思うような連中はなおさらのこと、笑顔やあいさつは大の得意技です。
 そんなのを見慣れてるもので、日本人アウトドアガイドを見ていて、笑顔やあいさつのトレーニングをもう少しやった方がいいかもしれないなと思うことが何度かありました。

 セールスマンは、実際に笑顔やあいさつの練習をします。ファーストフードやファミレスでも当然やってるでしょうし、ホテルマンとか東京ディズニーランドのスタッフなんかは相当な訓練を受けているはずです。
 アウトドアガイドの皆さん、いかがでしょう? 彼らに負けないくらい笑顔の練習してますか? あるいは天性の笑顔で彼らに負けない自信がありますか? 両方にノーだったら、今日からでも鏡に向かって笑顔であいさつする練習をはじめましょう。ここがクリアできてないと、アイスブレイクどころじゃありません。



■ (2) 名前を覚える ■

 研究発表vol.6のオマケ研究発表vol.8のオマケで、お客様の名前を覚えるコツをご紹介しました。これも基本中の基本、自分の名前を覚えてくれない人に、親しみを感じろったって、そりゃムリっす。

 でも実はお客様の名前を覚えるだけじゃ、まだじゅうぶんじゃないんです。もう一つ大切なことは、自分(ガイド)の名前をお客様に覚えてもらうこと。
 自分がツアー参加客だと思ってください。ガイドは自分の名前を覚えて呼びかけてくれてるけど、自分はガイドの名前を覚えてなくて、「あのぉ、すみません......」としか呼びかけられないって状態って、けっこう居心地悪くありませんか? 居心地が悪いということは、アイスブレイクができてないっていうことです。

 「それは覚えない客が悪いんだ」ですって?
 イエイエ、んなこたぁありませんよ、ガイド側に「自分の名前を覚えさせる技術 / 工夫 / 努力」が欠けてるんです。

 僕を例に取ってみましょうか。英語にはリャ行がないので、リュウは英語だと「リユー」になります(ちなみにビデオゲーム「ストリートファイター」のリュウは「ライユー」と発音されているので、僕を「ライユー」と呼ぶ人も少なくありません)。欧米人には聞き慣れない名前ですから、やっぱり新人の頃はなかなか覚えてもらえませんでした。そこで一工夫。

 「My name is Ryu, spelling R, Y, U. I know it's such a strange name for you and might be hard to remember, but don't call me "REUSE" or "REDUCE" or "RECYCLE" please, but I'm Ryu.」

 「リユーといいます。聞き慣れない覚えにくい名前でしょうが、『リユーズ(資源再利用)』、『リデュース(ゴミ削減)』、『リサイクル』などとは呼ばないでくださいね、リユーです」

とトレンディな環境ネタ(?)で一発ダジャレをかますわけです。こんな下らんシャレでもまず間違いなくちょっとした笑いは取れますし(=アイスブレイク!)、このトークを使い始めてからは記憶定着率は飛躍的にアップしたんですよ、ホント!

 日本人ガイドが日本人客を相手にする場合、ここまでトリッキーなトークを使う必要はないはずです。ちょっと工夫して、しっかり覚えてもらいましょう。
 ちなみに「ウチのツアーは名札つけるから大丈夫」などと安心しないこと。名札をつけてると、かえって覚える努力を怠る傾向がありますから、むしろよけいに覚えさせる努力が必要ですよ。



■ (3) ほめる ■

 緊張してるお客様には、とりあえずこちらから何か話しかけてあげなきゃいけませんが、
 「良い天気ですね」
 「そうですね......」
 「......。えっと、じゃぁカヤックやったことありますか?」
 「いいえ......」
 「......。」
なんてやってたんじゃアイスブレイクはおぼつきません。

 ここは一発ほめましょう。セールスのトレーニングでもすごく重視されてました。
 ただし心にもないお世辞は逆効果。歯の浮くようなお世辞って、かえって白けてしまうもんです。初対面でいきなり「君の瞳に乾杯」なんていわれたら、誰だって引きます。
 ではどうするか?

 人間って、初対面の人間をものすごいスピードでサーチ、スキャンして、色んな情報を脳ミソに流し込みます。あんまり膨大な情報を読み取るので、いちいち意識にのぼってこないものが大半ですが、そういう情報の激流の中には、自分にとって好感度の高いものもたくさん含まれています。それを見逃さず、「あ、これはほめなきゃ!」とすかさずピックアップできるように練習するのがコツです。

 たとえば見るからに苦手なタイプの人でも、すべてが嫌いなモノの固まりなんてことはありません。センスの良いシャツを着ているかもしれません。靴の趣味が素敵かもしれません。新品の鞄を持っているかもしれません。発売直後の話題の携帯電話を持っているかもしれません。良い声かもしれません。アンジェリーナ・ジョリーにそっくりな唇の持ち主かもしれません。そういう情報は脳内を一瞬で流れ去ってしまいがちですが、アイスブレイクのときには流し素麺よろしくエイヤっとつかまえ、すかさず口に出さなくてはならないんです。

 もちろんこれにも少々練習が必要です。というのも、実は好感度の高い情報ほど意識にのぼらず、嫌な情報ほど気になるものなんですよね。ガイドの場合は、それを逆にしなきゃいけません。ちょっとした脳トレですね。
 やり方はいろいろあると思いますが、たとえばTVを見ながら「この人をほめよう」と決めて、10個ほど自分にとって好感の持てる項目をピックアップする、なんてのが良いかもしれません。好感度の高い人からはじめ、だんだんと嫌いなタイプに移っていくと良いでしょう。別にTVでなくても写真でもいいですし、電車に乗り合わせた人で密かに練習してもいいでしょう。いつでもどこでも練習できます。
 とにかく、自分にとって「嫌い」、「趣味に合わない」「不愉快」なことはサッと流し、「好き」「趣味にあう」「興味をひく」ものを素早く見つけて口に出してみるのがコツです。

 一歩進んだコツをあげるとすれば、日本人が相手の場合は「モノをほめる方が会話が続きやすい」ということでしょうか。「綺麗な瞳ですね」と「お、新型の携帯ですね」を比べると、後者の方が圧倒的に会話につながりやすいようです(きっとイタリア人なら、瞳をほめられた方が喜ぶでしょうが)。



■ (4) 自分がリラックスする ■

 新米にはこれが難しいんです。
 でもガイドって、ある意味「役者」なんです。僕は新米じゃありませんが、その代わりに人見知りであがり症なので、ガイディング中は今でもかなり意識して「人なつっこくてのんきなヤツ」を演技します。

 とはいっても、まったく別人にならなきゃいけない、ってわけじゃないですよ。物静かな人が、無理して賑やかなガイディングをする必要なんてありません。
 そうじゃなくて、やるべき演技は一つだけ。初対面のお客様を、旧知の友人にあったような顔で出迎えること。これだけです。緊張して背中に冷や汗かき、足はブルブル震えてても、何食わぬリラックスした顔でお客様をお迎えする、これですね。

 アウトドアツアー初体験のお客様は、過敏になってるケースがよくあります。こういう場合は、ガイドが鷹揚にどっしり構えて「ダイジョブ、ダイジョブ」という雰囲気をかもしだしていないと、なかなかアイスブレイクできるもんじゃありません。というわけで、リラックスしましょう。緊張してても、リラックスしまくってる演技をしましょう。

 とはいえ、僕もこれにはかなり長い時間かかりましたけどねぇ。生まれつき人なつっこい同僚達が、本当にうらやましかったもんです。



■ グループ全体のアイスブレイク ■

 さて、ここまでは「ガイド対お客様」、つまり「一対一」のアイスブレイクのヒントを取り上げました。こうした技術は、おおむねセールスマンが使っているものと共通だと思います。

 ただアウトドアガイドの場合、これだけでは仕事は勤まりません。
 ガイドは一人一人のお客様と素早く打ちとけたものの、お客様同士の会話がなくてグループ全体はよそよそしいままツアーが終了してしまうなんてのは、僕自身も数え切れないほど体験しました。こういうのは決して成功とはいえませんし、ものすごく疲れます。
 というわけで、ガイドの場合はお客様同士のアイスブレイクのお手伝いもしなくちゃいけないわけです。

 ただ実は、これに関してはインターネット上にもいくらでもアイディアが転がってるんですよ。
 Googleで「アイスブレイク」を検索してみましょう。面白いことにセールス用アイスブレイクはあまり見あたらないかわりに、会議、研修、セミナー、ワークショップなどの場で参加者同士が打ちとけるためのアイスブレイクの解説はいくらでも出てきます。これらのアイディアが、そのままお客様同士のアイスブレイクにけっこう使えたりするんですよ。

 というわけで、ネット上にたくさん転がってるアイディアの中から、ご自分にあいそうなものを探して試してみてください。

 と、これだけで終わってしまっては平成無責任男ですから、僕の職場で実際に使われていたアイディアもいくつかご紹介しておきましょう。



■ 自己紹介のときに ■

 お客様同士が顔を合わせて各自自己紹介するときに、名前、国籍(日本でのツアーでは不要かもしれませんね)、カヤック歴に加えて、「一つ変な質問」を加えるというのは、我が職場では定番でした。実際に僕らが使っていたものには、

  • 今朝の朝食は?
  • 好きな食べ物は?
  • 好きな色は?
  • 好きな俳優は?
  • 最近観た映画は?


 今パッと思い出せるのはこの程度ですが、とにかく会話のキッカケになりそうなこと、場が和やかになりそうなことだったら、別にツアーの中身となんの関係もなくても良いんです。
 たとえば好きな色は「青」といいつつ、赤い服着てたりする人は必ず一人や二人はいて、それに突っ込みを入れてくれる人もたいてい一人や二人はいます(いなければガイド自身が突っ込めばいいだけです)。観たいと思っている映画を「観た」という人がいれば、その人に話しかけてみたいと思うでしょう。要は見知らぬ人を「ちょっと話しかけてみたい人」と感じさせられれば、それで成功です。
 注意事項。即答できる単純な質問じゃないと逆効果です。あと多国籍の人が同席する場合は、政治や宗教ネタもタブーですね。

 さらに、お客様同士が名前を覚えるための遊びとして、一通り自己紹介が終わった後、お手玉を「自分の名前、相手の名前」をいいながらグループ内でパスしあう、という遊びを30秒ほどやる先輩ガイドもいました。覚えにくい名前の人にはお手玉がなかなか回りませんから、その辺はタイミングよくガイドがフォローを入れます。



■ ツアー中に ■

 ツアーが始まって雑談する余裕が出てくると、もう少し凝ったことができるようになります。ネット上に転がってるアイディアは、けっこう時間を食うもの、お互い顔見知りであることが前提のゲームも多くあって、朝一番の自己紹介のときには使いづらいものが少なくありませんが、たとえばモーニングティー休憩くらいのタイミングになってくると使えるようになってきます。
 僕らはモーニングティーで、こんなことをやってました。

【会話編】
 以下のような質問をして、グループ内で情報交換してみます。


  • ここまでのNZ旅行で「最悪だったところ(こと)」は?
  • NZで食べた一番美味しかったものは? 一番不味かったものは?
  • 驚いたNZスラング(NZには、独特のキウィ弁がいっぱいあります)は?


 どれも旅行者同士で会話が弾みやすいトピックです。
 まぁ実際には、モーニングティー休憩時には、ガイドがお客様から質問攻めになることが多く、こういう情報交換はランチ休憩時にずれ込むことも少なくありませんでしたが。



【肉体編】
 おしゃべりじゃなくて、身体を動かしてアイスブレイクをするというのも、アウトドアツアーではよくやります。シーカヤックツアーの場合、こんなミニゲームをやってました。


  • 砂浜で円陣になり、パドルを垂直に立てる。ガイドの「右!」「左!」というかけ声で、パドルをその場に残したまま隣のパドルまで走っていってつかむ。パドルが倒れてつかみ損ねた人は円陣から外れるというゲーム(文末オマケ参照)
  • ビーチフラッグ大会
  • 地面に落ちてるパドルをつま先に引っかけて空中にポンと放り上げてつかむ
  • パドルをクビの後でくるりと一回転させる


 どれも他愛もないゲームです。最後の二つなんて競争でさえなく、単にパドルを「かっこよく」振り回す練習をしてるだけです。でも若い人は喜びますね。
 ただ、お年寄りの多いグループには向きません。
 使うタイミングも問題ですね。お客様が疲れてるときに、あまり暴れさせるのも問題。ですから僕らは昼食後にお客様があちこちに散らばって昼寝していたようなとき、「さぁそろそろ出発しますよ」と集めておいて、目覚まし代わりにこういうゲームをやることが多かったです。



■ 勝手に盛り上がるグループ ■

 一つ注意事項です。
 まれに、初対面の人たちばかりのはずなのに、サッサとうちとけてすぐに盛り上がり始めるグループもあります。日本では珍しいかもしれませんけど。
 そういうグループに対して、不必要なアイスブレイク攻撃を執拗に仕掛けるのは、かえって興ざめです。よく観察して、TPOで使い分けましょう
 盛り上がりに水を差さない程度なら、もちろんさりげなく情報交換ネタをふったり、パドルゲームをやったりするのはOKでしょうが、あまりにあざとい「いかにもアイスブレイクのためのゲームです」みたいなのを盛り上がってるグループにやらせるのは、寒いことになりそうです。



■ 今回のまとめ ■

  1. アイスブレイクは、アウトドアガイドに欠かせない技術です。
  2. アウトドアガイドには、一対一のアイスブレイクと、グループ全体のアイスブレイクの両方が必要です。
  3. 一対一のアイスブレイクは、セールスマンの技術が応用できます。
  4. グループアイスブレイクは、研修用の技術が応用できます。
  5. おそらく一番難しいのは、笑顔でさりげなくたくさん褒めることです。がんばって練習しましょう。
  6. 研究員リュウは、美女を相手にするといまだに顔がこわばります。修行のために随時美女を募集しております。


■ 次回予告&宿題 ■

 次回はカスタマーケアをとりあげてみましょう。
 一般的なサービス業とアウトドアツーリズムでは、カスタマーケアに共通点と相違点があります。共通点、相違点、それぞれ三つずつ考えておいてください。これが宿題です。回答例を編集部までお寄せいただけると、泣いて喜びます。研究にご協力を!



■ オマケ ■

【ツアー動画 #001】



 2010年2月にガイドしたアウトドアレクリエーション専攻の高校生のシーカヤックツアーのひとこまです。本文中で取り上げたパドルを使ったミニゲームをやっているところです。

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