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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.1:研究員リュウとは?

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文:リュウ・タカハシ
イラスト:Ryoko
2009年5月27日


 サステイナブルツーリズム、エコツーリズム、グリーンツーリズム、ネイチャーツーリズム、アドベンチャーツーリズム......。
 似たようなカタカナ言葉がいっぱいあってクラクラしそうですが、どれもすっかり定着しちゃいましたね。
 自然の中でこういう仕事につきたいと憧れてる人も、多いんじゃないでしょうか?
 「明日の午後は近所のスーパーでレジ打ちのパートですの」じゃなくて、「明日の午後は近所のエコツアー会社でインタープリターのパートですの」なぁ~んて、ちょっとよくありません?

 お上もエコツーリズム推進法子ども農産漁村交流プロジェクトを導入したりして、ガイディング技術の必要性もますます高まってるようです。
 この流れの中で、憧れたわけでもないのになぜかガイド役やらコーディネーター役やらをやる羽目になって困ってる人も少なくないでしょう。

 でもこの手のツアーの先進諸国と違って、ガイディング技術を体系的に学ぶのが難しい今の日本。ガイディングの基礎を知らなきゃ、プログラムやツアーのデザインだってうまくできません。憧れてる人にもそうでない人にも、困った話です。
 消費者にとっても困りものです。アウトドアガイドには、接客技術はもちろん、危機管理技術だってちゃんと身につけておいて欲しいものですよね。
 でも噂によると、必ずしもそうではないとか。ツーリズムにもハコモノ行政の弊害ですか?
 う~ん、困った。

 ならばe4が一肌脱ぎましょうってなわけで、ガイディング研究所の開設です。
 遅ればせながら初めまして、専任研究員のリュウです。

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 さて、今回の研究テーマは、「リュウってのは何者?」です。



■ ニュージーランドにて ■

 僕は、アウトドアツーリズムの本場ニュージーランド(NZ)で、シーカヤックガイドをやってました。春~秋はビッチリ週五日、冬でも平均週二日くらい海に出る専業プロ生活を10年間やりました。
 海外の日本人ガイド=日本人客専門ってのが世間の認識みたいですが、僕は世界各国からのお客様を担当してまして、日本人が減る一方のこの数年は、日本語まじりの仕事は月に一、二回でした。

 NZにはSKOANZ(Sea Kayak Operators Association of New Zealand)というシーカヤックツアー会社の組織があります。ここの認定ガイド資格を日本人で初めて取得したのが、僕です。
 運悪く大嵐の余波の中での受験となり、受験者12名中11名が最低一科目は再試験と、試験史上最低の合格率。その中で全科目パスした唯一の受験者が、なぜか僕でした。その代わり、三途の川の一番近くまで行っちまったのも僕でして、全科目一発クリアよりも、生きて帰れた奇跡がとにかく嬉しかったです。

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■ エイベルタズマン国立公園 ■

 縄張りは、NZ屈指の人気観光地エイベルタズマン国立公園。夏にはフルタイムガイドが百数十匹もウヨウヨし、連日千名以上のお客様が海に浮かぶNZ商業シーカヤック界のメッカ。というより、NZアウトドア界の中心地ですね。
 聞くところによると、NZどころか世界でも最大級の商業シーカヤックゲレンデだそうで、「シーカヤック界のハリウッド」と呼ばれていま......せん、まだ。

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 このレポート(パドリングレポート:エイベル・タズマン国立公園南部)が、実は僕のモノ書きとしてのデビュー作でして(今読むと赤面モノなのですが)、まぁこういうような仕事です。

 もちろん、いつもこういうラッキーなツアーばかりじゃありませんよ。10年のあいだには、そりゃ色んなことがありました。
 2m近いスイス人のオカマが、海上でシンディ・ローパーを熱唱しつつクネクネ踊り狂い、あげ句のはてにいきなり号泣しやがってほとほと困り果てたガイドなんて、世界中でも僕くらいでしょう。
 英語力マイナス100点の台湾人新婚旅行カップル相手に、何かを伝えようとするたびに、いちいち上陸して砂に漢字書いて筆談しながらという、とてつもなく手間と労力のかかるツアーをやったのも、今では懐かし......くもなんともねぇ思い出です。あれをボォ~ッと待ってて下さった他のお客様、アンタらホントにえらいぞ、よくぞガマンしたっ!
 他にもあります。またお話しましょう。

 ちなみにエイベルタズマンのシーカヤックガイドは25歳以下がほとんどで、さらにそのほとんどが3年以内に辞めて転職するので、僕のような10年選手のオヤヂは、生きた化石です。

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■ 訓練と試験 ■

 後輩のトレーナーや試験官もやってました。NZ人はもちろん、他にもカナダ、アメリカ、イギリス、アイルランド、スコットランド、オランダ、フランス、スイス、ドイツ、ベルギー、オーストラリア、タイ、韓国、日本など、書いてる自分がビックリしたほど多くの国からの出稼ぎガイドを指導しました。「ハリウッド」ってたとえ、悪くないじゃん。

 教え方は一番分かりやすいが、試験では容赦なく不合格を出すし講評も辛口なので、「教わるならリュウ、試験官なら別の先輩」ともっぱらの評判。そういや試験当日、急な胃痛でトンズラしやがった後輩もいたし、講評で泣いたヤツもいたっけ。二十歳にもなって男が泣くな、バガヤロ!

 国立職業訓練校ガイドコースの学生や、アウトドア専攻の高校生(アウトドア先進国には、そういうのが普通にある!)などの「ガイドの卵」の訓練や試験も、ときどき手伝ってました。卵相手には、すごく優しくやってました(たぶん)。


■ 日本にて ■

 日本でも多少活動しました。

 2001年にはゴーフィールドからの依頼で、「日本初のNZ方式」を看板に掲げたアウトフィッターをプロデュース。開店した2002年と翌2003年の夏は、香川の同店でガイドしたり若手を指導したりしました(残念ながら2008年閉店)。

 ガイディングのノウハウを日本向けにアレンジして、プロ向けの合宿勉強会「プロガイド・ワークショップ(PGW)」をはじめたのが2002年。翌2003年にはアマチュア向けに再アレンジした「ツアーリーダー・セミナー(TLS)」も開始。日本に行くたび(ほぼ一年おき)に開催して、この原稿を書いている2009年5月現在、それぞれ7回ずつを数えます。

■ でも実は ■

 こんな風に書くと、いかにも最初っからすごいカヤッカーだったように聞こえます?
 ぜんっぜん違います。

 NZに移民したら、大工か家具職人に弟子入りしてやろうと思いつつ日本をあとにしたんですが、着いてすぐに氷河ウォークツアーに参加したのが運の尽き。ガイドのお姉さんのかっこいいこと! 笑顔満点、気配り満点、爆笑トーク満点(だったらしいのですが、当時の英語力ではサッパリ分かりませんでした)、バスを運転するは、アイスアックスは振り回すは、八面六臂の活躍とはこのこと、もうシビレまくりました。

 「おっしゃぁ、オレッちもいっちょアウトドアガイドだぁ!」

 単なる気の迷いです。

 夫婦揃って気にいって住むことに決めたのが、たまたま「ハリウッド」の近くの町。

 「よっしゃぁ、それならシーカヤックガイドだぁ!」

 血迷ってますね。なんせカヤックにさわったこともなかったクセに。

 ですから見習い時代は、ガイディング修行とカヤック修行が同時進行で、とてつもなくハードでした。つらかったッす......。

 つまり僕の場合、カヤック好きが高じてシーカヤックガイドになったんじゃなくて、種類はなんでもいいからアウトドアガイドになりたいと思ったのが最初で、住んだ場所の関係でたまたまシーカヤックガイドになったんです。
 最初っからすごいカヤッカーだっただなんて、とんでもない。

 今でも「ガイディングとカヤック、どっちが好き?」と、普通なら答えられないような変な質問を受けたら、迷わず「ガイディング!」と答える変人です。

■ 最前線からの撤退 ■

 2008年5月、フルタイムのガイド業から引退。気力も体力もとっくに限界で、年間200日近くもお客様の命を預かる生活は、もうムリです。

 ただし今でも近所に住んでるので、ガイド・学生相手の訓練・試験や、繁忙期の助っ人ガイドなど、ときどき「ハリウッド」から呼び出しがかかります。日本からのラブコールもいただいてます。
 ありがたいことです。
 でも生きた化石は、大切に使いましょう。

 いや、ホントの話、子供の頃から虚弱なチビで、20代になってもしょっちゅう風邪ひいて寝込んでたんです。なのに30歳過ぎてから本場でガイドになり、10年間も続いたってのは、世界七不思議の一つです。
 ちなみに「ハリウッド」の場合、女性ガイドでさえほとんどが身長、体重、パワー、スタミナすべての面で僕より上でした。

 体力に自信のないガイド志願者の皆さん、案ずるより産むが易し、やりゃなんとかなるという証拠がここにいますよ。ま、ガイド時代もしょっちゅう風邪ひいてましたけど。

■ そしてガイディング研究所 ■

 というわけで、これからはガイディング研究所の専任研究員です。よろしくお願いします。

 さて、次は当然「そのガイディング研究所ってなぁ、何だぃ?」ってな話になりますね。えっとですね、ガイディング研究所ってのはですね......。

 あ、紙面がつきてしまいました!

■ 今回のまとめ ■

  1. エイベルタズマン国立公園は「ハリウッド」です。
  2. 研究員リュウは、血迷ったあげくのはてに日本人初のSKOANZ認定シーカヤックガイドになりました。
  3. 研究員リュウは、PGW、TLS主宰者です。
  4. 研究員リュウは、「ハリウッドの化石」です。
  5. ド派手な長身のフランス語系スイス人青年には、くれぐれも要注意です。

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■ 次回予告&宿題 ■

 次回から本格的に研究開始です。研究開発費は次回徴収しますから、忘れないように(ウソ)。振込先は......(フィッシング詐欺かよ)。

 次回のテーマは、もちろん「ガイディング研究所とは?」です。

 え? 「どうせシーカヤックガイドになるためのマニュアルだろ」ですって? ブッブーッ、残念でした、そう簡単にはいかないのが、アマノジャクな研究員リュウです。乞うご期待。

 えっと、初回ですから、特別に宿題はなしにしときましょう。
 ではまた!

 とはいいつつ、オープン記念でvol.2も同時アップなんですが......

■ オマケ ■

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