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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.5:アウトドアガイドって? その1

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文:リュウ・タカハシ
イラスト:Ryoko
2009年6月29日


 ガイディング研究所へようこそ。専任研究員のリュウ、ガイドの一般教養講座の担当です。

 ハイ、突然ですが、ここで臨時ニュースのお知らせです。tetsuyakこと千葉さんのサイト『初心者シーカヤッカーへの道』に、たいへん興味深い研究コンテンツが登場しました。

 ◎初心者シーカヤッカーへの道「CASE STUDY WORKSHOP」

 実は研究員リュウは、以前インシデントレポートのシステムを日本に導入しようとしていたことがありまして、そのときは実際におこったカヤックの事故やニアミス、ヒヤリハットを投稿する掲示板を整備したりしたのですが、tetsuyakさんのコンテンツは「仮定の事例でもいい」としているところが、非常に新しいです。
 まったくその通りだと思います。僕らも基本を学ぶときに、仮想事例でシミュレーション・トレーニングを受けたものです。

 仮想事例のいいところは、誰も恥をかいたり傷ついたりしないという点です。失敗学の畑村洋太郎先生も「失敗は隠れたがる」とおっしゃってるように、インシデントレポートの大きな問題は、やっぱり「隠そう」という心理が働くところなんですよね。仮想事例を可とうたってしまうことで、その点が大きくクリア出来そうです。勉強になりました。
 今後のご発展をお祈りします。ともに頑張って研究しましょう。

 さてさて、本題。
 二回に分けて、アウトドアガイドなる生き物を研究してみることにします。タウン系ガイドの方には無関係の話題も出てくるでしょうが、野次馬気分でどうぞ。
 前回だしておいた宿題をちゃんとやったエライ人は、比べてみてください。もちろん比較レポートをe4編集部まで送っていただけたら、泣いて喜びます。



■ アウトドアガイド=詐欺師? ■

 「シーカヤックガイド? いいなぁ。」

 「でしょ!? カヤック漕いで、ビキニやトップレス眺めてりゃお金もらえるの。ワッハッハッ。」

 こう答えてうらやましがらせてました。極悪人です。
 本音かって? はい、本音です。



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 ウソ。

 ホントはビキニ観賞してるヒマなんかないっす。何度悔しい思いをしたことか......。



■ 何でも屋? ■

 ちょっと前、ワークシェアリングという言葉をよく目にしました。アマノジャクな僕は「なんで横文字なんだ、『分業』で何が悪い!」と怒るわけですが、ともかくエニウェイ、ディス・ワールドはロング・タイム・アゴウからワークをシェアるディレクションにストレイトにトゥデイまでカミングしたわけです(まてよ、っつーことはインドのカースト制って超最先端だったのか!?)。

 でも分業とはほど遠い仕事って、今でもあります。たとえば夫婦でやってる山奥のペンションは、ホテル・旅館が大勢でやってる仕事を、二人で抱えこんでます。

 アウトドアガイドも似たりよったり。
 基本は「ツアーコンダクター」と「自然観察指導員」と「アウトドアインストラクター」と「救助隊員」を足して3.1415926で割ったような仕事です。
 ただこれはフィールドだけの話。それ以外にも安全で楽しいツアーを企画デザインし、宣伝広告営業し、予約受付をし、送迎運転手もやり、アウトドアメーカーや問屋と交渉して取引し、ってなオフィスワークもあります。多彩です。何でも屋です。



■ それともスーパーマン? ■

 オフィスワークはさておき、フィールドの仕事をもっと具体的に並べてみましょう。僕がやってたシーカヤックガイドを例にとります。

 僕らはお客様やカヤックをのせたバスやトレーラーを運転し【運転手】、カヤックを教え【インストラクター】、歌って踊ってジョークを飛ばし【太鼓持ち】、お客様の目では捉えられない遠距離のオットセイやイルカやペンギンをいち早く発見し【ネイチャーガイド】、自然解説し【インタープリター】、歴史を語り【ツアコン】、写真を撮り【フォトグラファー】、料理し【コック】、常に天候や海を読んで危機管理を怠らず【ガードマン】、ときには応急処置をし【ファーストエイダー】、大波の中でお客様の艇を牽引し【救助隊員】、いざとなったらレスキューもやり【同】、リクエストがあれば七色のエスキモーロールを披露し【芸人】、翌日のアクティヴィティの相談に乗り【コンサルタント】、ついでにブッキング代行までし【旅行代理店】、万が一クレームがつけばクレーム処理をし【サポートセンター】、お客様を送り出したあとはカヤックや道具を洗ったり修理【アウトドア屋】したりします。

 大自然を毎日楽しみたい?
 まったくッすねぇ。でもそんなヒマはないんッすよぉ。
 え、横にビヨンセそっくりさんのトップレスがいた!? しまった、気づかなかったよ......。

 お客様から「こんなことまでやるの!? 毎日!? スーパーマンだね!!」と、よくいわれたもんです。
 「はい、スーパーマンです」とはいいませんよ。なんせ僕らはスパイダーマンですから。でも実のところ、こういわれるのがアウトドアガイドの誇りであり、原動力なんです。



■ 自然は敵 ■

 ダメ押し。
 アウトドアガイドにとって一番大切な業務は、お客様の安全を守ること。
 何から? もちろん相手は「自然」です。

 つまり自然が好きでガイドになったというのに、いざ仕事を始めてみると、相手は実はお客様に牙をむく「敵」だったことに気づく、ってわけです。
 自然を守る? いえいえ、お客様守る方が先ですってば。

 スレッカラシのベテランになると、お客様を連れてフィールドに出てるときは「自然美」なんか眼中にありません。目を皿にして、悪天候や災害の予兆、エスケープルートなどを探し、あるいはお客様にも目を光らせて彼らのコンディションを常にモニターし続けます。
 ハリウッド映画なんかに、ときどきVIP護衛官が出てきます。彼らは、テロリストがどこから襲ってくるかと、360度に厳しい視線を飛ばし続けます。
 仕事中のガイドは、同じ眼をしてます。やめろよ、怖ぇってば、お客様おびえるぞ。

 ですから、美しい自然を素直な心で愛でたければ、アマチュアのままの方がいいですね。「自分はタウンガイドでよかったぁ」と胸をなで下ろしているあなた、その通りです!(笑)
 ネイチャーフォトグラファーになるのも良いアイディアかもしれません(笑)



■ これを読んだ上で、それでもなお ■

 「やっぱりアウトドアガイドになりたい!」とおっしゃる覚悟のある方は、大歓迎です。
 そういう方のために、良いことも少しお話ししておきましょう。

 アウトドアガイドって、NZではすごく「つぶし」がきくんです。
 僕の元同僚たちの転職先を列挙してみましょうか。

 他のジャンルのアウトドアガイドまたはインストラクター、陸軍教官、林業家、学校の体育(アウトドア)教師、学校用務員、大工、バス運転手、ウォータータクシー運転手。

 ここまでは分かりやすいですね。でも次はどうですか?

 ヘリコプターパイロット、水産会社営業部長、カウンセラー、建築家秘書兼宣伝広告営業担当、家政婦、助産婦、看護婦、獣医、造園家、ヨガインストラクター、発明家、電気工事工、語学教師、コック、コーディネーター、写真家、文筆家、地方公務員、図書館員、etc、etc......。

 「彼らの共通の前職は?」ってクイズに、「シーカヤックガイド!」って正解できる人、います?
 なに、答えられた!? ではあなたの職業を僕があてましょう、ずばりスピリチュアルカウンセラーか霊能師でしょうっ!

 転職文化がまったく違うので、日本とNZを同列で比べるわけにはいかないのが残念なところです。日本でももっと転職が柔軟になれば、マルチタレントな元アウトドアガイドは、引く手あまたになるんですけどね。



■ ともかく、アウトドアガイドはやっぱりカッコいい ■

 いろいろいいましたが、やっぱカッコいいですよ、アウトドアガイドは。
 僕自身はどうだか知りませんけど、出来の悪い後輩みてても、なぁ~んでこんなダッセェ奴が、海に出てお客さんを前にするとそれなりにサマになるんだろうなぁ、と思うことしばしば。先輩の目で見てさえそうですもん、お客さんから見たら、そりゃさぞかしカッコいいんだろうなと思います。



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 カッコよさの秘密って、「アウトドア技術の高さ」ではなさそうです。カヤック漕ぐのが巧いとか、マウンテンバイクさばきが美しいとか、ロープワークが芸術的だとか、確かにそういうのもカッコいいんですが、でもそれだったらカッコいいアマチュアだってゴマンといますし、競技選手にも敵いません。

 そうじゃなくて、やっぱりマルチタレントぶりこそが、「うわぁ、プロってやっぱり違う!」となる秘訣じゃないかと思います。
 しかもそのマルチタレントを、自然に対して使ったり競技のために使ったりするんじゃなくて、すべてお客様のために使っちゃうわけです。カッコよくなきゃウソですよね。

 少なくとも僕がガイドを目指したキッカケも、笑顔とトークを絶やさず、色んな重労働をさらりとこなしてしまう氷河ウォークガイドのスーパーマンぶりにしびれたからでした。
 ま、若くてスレンダーな美女でしたから、そこにしびれただけだったかもしれませんけど。



■ 今回のまとめ ■

  1. アウトドアガイドは、3Kどころじゃありません。
  2. アウトドアガイドは、何でも屋です。
  3. アウトドアガイドは、スーパーマンです。
  4. アウトドアガイドの燃料は、誇りです。
  5. 専任研究員リュウは、美女にしびれて人生あやまりました。


■ 次回予告&宿題 ■

 次回は今回の続き。
 と素直にいかないのが当研究所の芸風だってことは、そろそろお分かりですよね。ご明察。

 次回は、サービス論をやってみましょう。サービスとホスピタリティの違い、なんてのをときどき目にします。あなたなりの違いを定義しておいてください。これが宿題。もちろん編集部まで回答をお寄せいただけると、もっとうれしいです。研究にご協力を!

 当研究所の見解は、次回発表します。



■ オマケ ■

【ガイド小噺こぼればなし 其の参】

 日帰りシーカヤックツアーに、四十代後半とおぼしき日本人ビジネスマン二人組。NZ出張中で、休日を利用しての国立公園観光なんだとか。

 そのお二人、お昼ご飯のあと、
 「あぁ~あ、もうヤダ、辞めて会社作ろうかな。大変なのかな?」
なんておっしゃってるわけです。

 こちとらガイドでごぜぇますからね、きかれりゃ、分かるかぎりお答えするってのが仕事です。えぇ、お教えしましたとも。
 議事録作成、定款認証、設立登記申請のザッとした流れからはじめて、どこに公証役場や登記所があって、何にいくら費用がかかって、どれくらいの期間かかるなんて細かい話、さらには最初に目的と会社名を仮決めして類似商号調査からおやんなさい、早まって会社実印を先に作ったりしちゃダメですよ、なんて注意事項まで、そりゃもう微に入り細に入り。
 他にも欧米人のお客様がいらっしゃったんですが、もちろんそっちは放ったらかし(^^;
 張り切りまくりの新米ガイドでしたからねぇ、もし手元に紙があったら、勢いで登記申請書も議事録も定款もその場で作っちゃったかもしれません。なくてよかったよ、紙。ま、あるわきゃないわな>シーカヤックツアー中

 極楽を絵に描いたようなビーチで、日本の有限会社設立登記申請のコンサルタントなんて生臭いことやったバガヤロなんて、世界シロしといえどもアタシっくらいなもんでしょうな。あぁバガバガしいったらありゃしない。

 あのお二人、独立してうまくやってらっしゃるかしら。そしたら今からでも相談料請求しちゃおうっと。

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