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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.15:「ガイド志望なんですが」#03

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文:リュウ・タカハシ
2010年2月11日



■ 久しぶりに ■

 こんにちは、研究員のリュウです。
 暑い日が続きますね。って、ニュージーランド(NZ)だけですか? この夏は天候不順で、数年前と同じようにこのまま暑くならないまま秋を迎えるのかと思ってましたが、2月に入る頃から急に暑くなりました。

 実は来週、アウトドアレクリエーション専攻の高校生二十数名を相手に、三泊四日のシーカヤック訓練ツアーをやります。この学校、僕がつとめていた会社に毎年ツアーを依頼していたんですが、ここ数年トラブル続きでついに堪忍袋の緒が切れて、昨年先生が直接僕のところに「個人的に仕事を受けてくれないか?」と打診してきたんです。金銭トラブルもあったようですが、僕をリクエストしても会社が応じなかったというのも大きかったようです。
 そんなわけで昨年からフリーランスとしてその学校の訓練ツアーを引き受けてます。実はこの学校のツアーは悪天候に悩まされるというジンクスがあるんですが、今年こそは好天に恵まれると良いなぁ。
 と思ってたら、やっぱり予報が悪い......。訓練ツアーですから、荒天気味の方が生徒の勉強にはなるんですが、第一線を退いたパートタイムガイドにとっては、ちとツライ......。

 さて、本日は研究発表vol.12:「ガイド志望なんですが」#01研究発表vol.14:「ガイド志望なんですが」#02と続いてきた三部作の完結編です。前回に続いて、強力な助っ人岡安さんの回答をお届けします。
 Mさんからのご質問は、#01をご覧ください。



■ 三十代後半から始めてやっていけるか? - 岡安さんの回答 ■

 これは、大変大きいです。
 日本の場合、二十歳前後からガイドを始める人が多く、三十代後半からの開始は、大変体力的に厳しいと感じます。覚悟と、トレーニングが必要でしょう。
 もちろん四十代でも現役で活躍しているガイドもいますから、無理だとはもうしませんが、特にデスクワーク中心の生活から転向されるとなると、事前のトレーニング、日々の体力の積み重ねが必須だと感じます。

 体力は、ぜひアウトドア活動の中で養ってください。
 私がお世話になったカンパニーの社長が、アウトドアの体力・筋肉はアウトドアで付けるべきと言っていました。確かに、これは当たっていると感じております。
 私、夏山にずいぶん登ったことがありますが、やはりその体力は山でしか養えませんでした。たとえランニングをしても、それはあくまで下界での話です。アウトドアの体力は、アウトドアでしか養えないのかもしれません。

 またツアー中、体力が劣っていても、技術によってカバーできる面もあると感じます。ラフティングにしても、筋力が強い人が上手いわけではないと感じます。それより、流れを読みながら、いかに漕ぐか(ここでは力が必要ですが)、そんな感じだと思っています。
 こう考えると、ある程度の体力と共に、技術を同時に磨く必要がありそうです。

 まとめると、現場で経験をつんでネットワークを構築しながら、体力と技術を同時に養う事が良いのではないかと感じます。



■ ガイドだけで生活していけるか? - 岡安さんの回答 ■

 この点は、それぞれの人の考え方、ライフスタイルがあるので一概に申し上げることは出来ません。大変特殊な例だと思いますが、あるニセコのガイドは、マイクロバスを改造して生活していると雑誌で読んだことがあります。

 また具体的にどのようなアウトドアガイド、ネイチャーガイドを目標に定めるかによって色々変わってくると感じます。
 たとえば、NPOや財団(共に北海道が拠点)という可能性もあると思います。
 また、最近注目が寄せられているリゾートホテル・グループも北海道に進出して、アウトドア事業をも中心にしたビジネスを展開していますので、そうしたところをリサーチしてみるのもいいかもしれません。



■ 再び研究員リュウから ■

 岡安さん、どうもありがとうございます。

 不可能ではないが、不惑目前デビューは相当にキツイぞという点で、岡安さんと僕の意見は完全に一致しました。
 でも僕たち二人のいいたいことは「キツイからやめておきなさい」ではなく、あくまでも「不可能ではないから、がんばれ!」です。応援します、本当にがんばってください。

 岡安さんの「アウトドアの体力は、アウトドアで」というのは、確かに当たっていると思います。僕自身10年間のプロ生活で、カヤックに関してはその辺のキウィ(NZ人)に負けない体力がつきましたが、ジョギングや自転車では彼らにまったく追いつけません。使う筋肉やスタミナ配分ってのは、やっぱりその分野で鍛えるのが正解なのでしょう。

 ただ同時に、別のことも感じています。
 実は高校時代に太極拳をかじってたんですが、短期間で恐ろしく肺活量が増えて驚きました。当時は片道20kmの自転車通学で、幽霊部員ながら剣道部にも入っていました。運動まったくしてない人だったら、そりゃどんなスポーツを始めたって短期間に肺活量アップするでしょうが、元々これだけ動いてたにもかかわらず、太極拳を始めたとたんに数ヶ月で肺活量5割増し(体感値)になったんですから、そりゃビックリです。
 昨年の日本行きの前、カヤックを漕いで身体を作り直している暇なんぞない公務員リュウは、太極拳を25年ぶりに再開してスタミナを練り直したのでした。成果はバッチリ、日本では現役時代とかわらぬスタミナで仕事がこなせました。

 あくまでも10年間の蓄積(岡安さんのおっしゃるように、現場で鍛えたわけです)があって、太極拳は1年間のブランクを取り戻すためのリハビリだったわけですから、Mさんにそのまま当てはまるかどうかは分かりません。
 でもヨガや太極拳などの腹式呼吸法を中心としたエクササイズは、スタミナ増強や疲労回復、あるいは体調維持などに大いに役立つはずだと感じている今日この頃です。僕も現役ガイド時代に再開しておくべきでしたねぇ。

 NPOや財団、はたまたリゾートホテルなどの情報は、僕の最大の弱点ですので、本当に助かりました。
 実は岡安さんはそれぞれ一つずつ実際に団体名、企業名をあげてくださっていたのですが、当研究所がきちんとリサーチする時間がありませんでしたので、今回は割愛させていただきました。

 ちなみにNZの場合は、アウトドアガイドがバスやバンを改造したキャンピングカーに住んでいるというのは、いたって普通です。季節によって半年ごとに移動するノマドのようなガイドも少なくありませんが、キャンピングカーどころかずっとテント暮らしをしているヤツもかなりいるくらいですし、後輩の日本人ガイド見習いはワンシーズンずっと普通のステーションワゴンの中で寝起きしていました。
 まぁこれは独身の若者だから出来ることですから、Mさんには決してお奨めいたしませんが(笑) とはいえ、実は僕が働いていたシーカヤックツアー会社の創業者夫妻(ドイツ人)は子供もいたのに、会社が軌道に乗るまで何年もキャンピングカー暮らしだったそうですけどねぇ。岡安さんにうかがったところ、ニセコのガイドも独身だったかどうかはっきり覚えていらっしゃらないとのことです。



■ 今回のまとめ ■

  1. 不惑目前でのアウトドアガイドデビューは、やっぱり辛いです。
  2. 体力はアウトドアで養い、スタミナ維持は太極拳やヨガで。
  3. 食える方策を考えるには、財団やNPO、あるいはリゾートグループなども視野に入れましょう。
  4. 世界のアウトドア界では車暮らしの強者も珍しくありませんが、日本では珍種です。


■ 次回予告&宿題 ■

 次回はちょっと趣を変えて、お客様と初めて顔をあわせる瞬間にスポットを当ててみようかなと思っています。いわゆるアイスブレイクというヤツですね。
 アイスブレイクは別にアウトドアガイドだけの技術じゃありませんから、一家言ある方も少なくないと思います。次回までにいくつか考えておいてください。これが宿題。
 面白いアイディアを編集部までお寄せいただけると、泣いて喜びます。研究にご協力を!



■ オマケ ■

【ガイドのトリビア #004 英語は世界共通?】

 アウトドアって遊び自体が輸入品みたいなもんですから、アウトドア用語ってのはほとんどが横文字でございますな。
 面白いことに登山の世界で古くから使われてる言葉、たとえばリュックサック、コッヘル(鍋釜のこと)、ピッケル、アイゼン、シュラフなんかは、ドイツ語でして、アルピニズムがどういう経路で輸入されたのか一目瞭然です。

 それ以外のもっと広い意味のアウトドアスポーツってのは、70年代以降にアメリカから入ってきたものですから、用語も米語がほとんどです。

 鋭いお客様は、お気づきになったでしょうね。はい、アタシ今、「英語」といわずに「米語」と申し上げました。
 なんでかって?
 よっくっぞきいてくださいましたぁ!
 面白いことにですね、アウトドア用語って同じ英語圏でも国によってけっこう違うんですよ。

 たとえば、アウトドア道具というにはあまりにも普通すぎますが、長靴から行きやしょう。
 米語だとご存じの通り「Rubber boots(ラバーブーツ)」です。
 これがイギリスに行きやすと「Wellies(ウェリーズ)」になっちまいます。Wellington boots(ウェリントンブーツ)の略だそうですが、なんでここにウェリントンなんてものが出てくるのかは、アタシにゃきかないでください。
 これで安心するのは大間違い。同じイギリス英語圏でもダウンアンダーのオーストラリア(以下豪)やNZに来るってぇと、「Gumboots(ガムブーツ)」になります。

 アウトドアでは手持ちの懐中電灯は何かと不便ですから、頭に「ヘッ電」をつけて両手をあけるのが好まれます。
 米語だとこれもご存じ「Head lamp(ヘッドランプ)」。ちなみに懐中電灯は「Flash light(フラッシュライト)」が一般的でしょうか。
 ところが英語だと「Torch(トーチ)」です。ヘッ電も懐中電灯もトーチ。あえて区別したければ「Head torch(ヘッドトーチ)」と「Hand torch(ハンドトーチ)」ですな。
 これは豪・NZでも同じですから一安心。

 さっき出たコッヘルという言葉を日本で使うのは、いわゆるヤマヤさんです。これがアウトドアズマンとなると「クッカー」を使う傾向があって、日本国内でも分かれるようです。ちなみにアタシはコッヘル派。なんででしょうねぇ???
 米語はもちろん「Cookers(クッカーズ)」。
 ところが英語だと「Pots(ポッツ)」。豪・NZでも同じです。

 じゃぁ英・豪・NZでCooker(クッカー)はどういう意味になるかというと、これがコンロなんです。コンロと鍋釜は、「Cooker & Pots」です。
 米語でコンロは「Stove(ストーブ)」ですな。コンロと鍋釜は「Stove & Cookers」ですが、こっちの人間にゃコンロ&コンロって意味に聞こえて、ややこしいったらありゃしない。
 ちなみに日本ではコンロとストーブ両方使いますが、やっぱり前者はどっちかというとヤマヤ系、後者がアウトドアズマン系って感じでしょうか。
 も一つちなみに、コンロって何語かご存じですか? ドイツ語? ブッブーッ! ワッハッハッ、ひっかかりおったな。正解は日本語、焜炉と書きます。中国語と答えた方、正解かもしれませんが、やっぱりアタシにゃよく分かりませんので、そこまで突っ込みたい方はご自分でどーぞ。

 こういうの挙げていくとキリがありませんが、最後に豪とNZでさえ違う例で締めくくりましょう。
 夏のアウトドアには欠かせないクーラーボックス。
 これは米語で「Cool box(クールボックス)」とか「Ice box(アイスボックス)」が一般的らしいです。日本と同じ「Cooler box(クーラーボックス)」という人もいるとか。
 どうやらイギリスでも同じらしいんですね。
 ところがダウンアンダーに来るととたんに化けます。豪では「Esky(エスキー)」。これ、実はブランド名です。商品名がそのまま一般名になることは、よくありますね。ホッチキス、マジック、ピアニカ、エレクトーン、デジカメなどなど(これらの本当の一般名詞、それぞれ分かりますか???)。エスキーもその仲間です。
 で、我がNZに来ますとまた名前が変わりまして、「Chilly bin(チリビン)」。冷たいビンっていう意味で、これは豪と違って立派な一般名詞です。ちなみにメキシコ料理の「Chili bean(チリビーン)」とは、綴りも発音もちょっとだけ違います。

 ってなわけで、日本では「英語は世界共通」で「アメリカの英語が一番標準」と思われたりしてますが、とんでもありません。英語は各国バラバラですし、どれが標準ってわけでもないんですからややこしい。
 ですからアタシのように各国からのお客様を取り混ぜてキャンプツアーとかやってますと、英語ネイティブ同士でもトンチンカンな会話が繰り広げられて、なかなか楽しいもんでございます。
 僕が日本の同業者と喋ってていつも紛らわしいのが、クッカーですね。コンロかコッヘルだかわかりゃしない。あーややこし。

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