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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.14:「ガイド志望なんですが」#02

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文:リュウ・タカハシ
2010年1月14日



■ おくればせながら、謹賀新年 ■

 こんにちは、研究員のリュウです。今年もよろしくお願いいたします。

 年末年始は自宅や友人宅でBBQ三昧でした。子供たちは元旦から海水浴で真っ黒です。
 こういう真夏のクリスマス正月って最初の一、二回は面白いんですが、やっぱりコタツにミカンじゃないと気分が出ません。おそるべし、三つ子の魂。
 ということは、我が子たちは海水浴にBBQで正月を感じるようになるんでしょうねぇ。ますますおそろしい。

 さて、本日の研究テーマは研究発表vol.12:「ガイド志望なんですが」#01の続編です。
 Mさんからのご質問は、#01をご覧ください。



■ 三十代後半から始めてやっていけるか? ■

 三十代後半からでのスタートは、そりゃめっちゃくちゃキツイでしょう。ってなことはMさんも百もご承知の上でのご質問ですよね。もっと単刀直入に僕の意見を述べることにしましょう。

 三十代後半からはじめるのが「不可能か?」と問われれば、僕は「いえ、不可能ではありません」と答えます。
 そもそも日本人平均を下回る体格・体力の僕が、世界平均を大幅に上回るマッチョだらけのNZアウトドア業界飛び込んだのが、三十代になってからです。
 Mさんの場合、すでに覚悟を決めてらっしゃるようにお見受けできますから、その心構えがあればなんとかこなせるのではないか、と感じています。

 でもアウトドアガイドはやっぱり超激務です。個人差もあるでしょうが、ガイディングの脂が一番のるのは、二十代後半から三十代前半じゃないかと思います。このピークを過ぎたら、体力・気力・痴力の衰えを技術・経験・智力でカバーしなくてはいけないわけですが、Mさんの場合はその時期にデビューして修行するわけですから、相当に腹をくくっておいてください(それでもきっと、「やっぱりやめておけば良かった」と泣きが入るでしょうが......)。



■ ガイドだけで生活していけるか? ■

 一番切実な現実問題ですよね。

 アウトドアツーリズム先進国で教育にもあまりお金のかからないNZでも、雇われガイド一人の収入だけで子供二人を大学までやるのはなかなかしんどいです。日本ではなおのことでしょう。
 現実的な選択肢は、共稼ぎか、独立起業(あるいはその両方)でしょうか。

 共稼ぎには、奥様の就職や託児子育て支援などのために、地域のコネ、ネットワークが必要なのはすでに#01で申し上げた通りなので、これ以上書きません。

 でも起業すれば大丈夫かといえば、もちろんそんなに甘いはずがありませんね。
 あくまでも一般論ですが、NZと比べて日本の方が生活コストが高いですし、しかもアウトドアツーリズム産業のマーケット自体も小さいですから、食えないアウトフィッターは掃いて捨てるほどあります。ですからここから先は、ガイディングの技術云々というよりも、むしろ経営手腕次第じゃないかという気がします。ちゃんとやっていけてるアウトフィッターがあるのも事実です。

 さて、そういう経営の具体的な話になりますと、お恥ずかしいのですが北海道に足を踏み入れたこともない僕としては、「こうすれば儲かります」という具体的なアイディアを差し上げることはできそうにありません。ウィンタースポーツもからっきし駄目ですし。ニセコはスキーフィールドとして世界的に知られているそうですから、可能性は決して小さくはないと感じますが。
 ともかく事前に起業を視野に入れた入念なマーケットリサーチが必要だと思います。前回申し上げたネットワークをフル活用して、ニセコ全体の観光業の底上げも視野に入れなくてはならないでしょうね。
 一般論で申し訳ないのですが。



■ 強力な助っ人登場 ■

 我ながら、どうも歯切れがよくありません。
 困っていたところに、力強い助っ人が颯爽と登場してくださいました。東京国際大学商学部客員講師の岡安 功さんです。

 岡安さんは埼玉長瀞、関西、四国などでラフティングガイドをしていらっしゃいましたが、今後の日本のアウトドアスポーツ発展には学術的な研究を深めることが必要とのお考えからアカデミズムの道に進まれました。欧米やNZでは珍しくないパターンですが、日本ではほとんど例がないはずです。現場出身者が血と汗と涙にまみれて身につけた「ノウハウ」は、やっぱり学問一筋の研究者の「フィールドワーク」とは、レベルが一段、二段違いますから、すごく心強いことです。

 というわけで、岡安編です。今回は、僕が前回回答させていただいた「2年間でやっておくべきことは?」への岡安版アンサーをお届けします。
 ちなみに部分的に当研究所研究員リュウが加筆させていただいております。あらかじめご了承ください。



■ 2年間でやっておくべきことは? - 岡安さんの回答 ■

 一番大切なのは、関西で出来る野外活動のスタッフなどで経験を積むことだと思います。週末などで時間を割いて、経験・体験されてはいかがでしょう。関西にはそんなラフティングガイドも多くいます。

 一つ目の理由は、まず、この業界がどんなものか、実際に中に入ってみるべきだと思うからです。色々な方のお話をお聞きするのも、良いと感じます。確かに、ニセコとは状況は異なりますが、アウトドア業界は、決して大きく変わりません。私の場合、関東と関西で経験しましたが、大差はありませんでした。ただ会社ごとに方向性の違いが大きいので、この点を踏まえ、経験するカンパニーを選別する必要はあるでしょう。

 次の理由として、アウトドア業界、大変狭いです。そのため、関西のカンパニーに所属していても、北海道との関係・つながりは作れると感じます。特にラフティングなどだと、北海道の修学旅行ラフトのヘルプで関西のガイドが呼ばれることも、ごくまれですがございます。つまり、関西にいても、北海道におけるネットワーク構築は十分にできると考えます。



■ 再び研究員リュウから ■

 岡安さん、どうもありがとうございます。

 僕も拝読してて「なるほどなぁ」とうなってしまいました。人脈作りは現地に行かないとできないかと思っていましたが、業界が狭いので関西にいながらでも可能というのは、目からウロコでした。関西から北海道にガイドが助っ人に行くなんてこともあるんですねぇ。勉強になりました。
 次回もよろしくお願いいたします。

■ 今回のまとめ ■

  1. 不惑目前でのアウトドアガイドデビューは、なかなか辛いです。
  2. でも不可能ではありません。
  3. 雇われガイド一本槍で子供二人を大学に行かせるのは、やはり辛いです。
  4. 儲かるアウトフィッター経営のノウハウは、今後の研究課題です。
  5. 準備期間に、関西で野外活動スタッフの経験を積みましょう。


■ 次回予告&宿題 ■

 次回は完結編です。今回僕が回答させていただいた「不惑前デビューでだいじょうぶか?」、「ガイドだけで生活していけるか」という二つの疑問への、岡安さんのご回答をご紹介します。

 皆さんもMさんにアドバイスするつもりでイロイロ考えてみてください。これが宿題。もちろん編集部まで回答をお寄せいただけると、もっとうれしいです。研究にご協力を!



■ オマケ ■

【ガイド小噺こぼればなし 其の七】

 ちょっと前までNZはマイナーで、オーストラリアと勘違いされるのが常でございました。
 まぁ確かに似たところの多い兄弟国みたいなもんです。それだけにキウィとオージー(オーストラリア人)のライバル意識はすさまじいものがありまして、彼らがいっしょになるとなかなか面白い光景が繰り広げられます。

 ある日のシーカヤックツアーのこと、オージーの女の子が紅一点で、残り七人の中にキウィの男の子がいました。他の六人の国籍は覚えてませんが、男二人連れが三組というむさ苦しい日だったはずです。
 ツアー開始から約一時間後、オットセイをひとしきり眺めたところで、そろそろモーニングティー休憩の頃合いとなりました。男性客だけならいざしらず、女性客がいる場合はトイレの希望をたずねるのがアタシのスタイルです。

「そこに見えてる最寄りの小さなビーチは僕らのグループで独占できるけどトイレがないです。あの岬を回り込めばトイレ付きのビーチがありますが、10分ほどかかりますし、きっと他のグループやハイキング客もいると思います。どっちが良いですか?」 とオージーの女の子にたずねました。
 すると彼女が口を開く前にすかさず

「じゃ、近い方にしよう。オージーの女になんかトイレいらねぇから。」

とキウィの男の子が一言。すかさずオージー娘が

「なによっ! 失礼にもほどがあるでしょ! オージーだってトイレくらい使うんだからね。
 じゃぁねリュウ、近い方のビーチにしよう。やっぱ空いてるとこ独占が良い」

「そらみろ、やっぱトイレいらねぇんじゃねぇか!」

「うるさい、私はアンタ達のためにガマンしてやるんだからね!」

 もちろん彼らはふざけてるんですが、他の六人はあっけにとられてました。なんせこの二人、この日初対面なんです。一時間半前に顔を合わせたばかりで、この時点まで彼らが会話らしい会話も交わしてないことはグループ全員がよく知ってたからです。
 こういうドギツイやりとりを初対面でやっちまうんですからら、キウィvsオージーの組み合わせは見ていて飽きません。
 日本では大阪人が東京にライバル意識むき出しにしますが、東京人はさらりと流しちゃいますから、互いにビシバシやりあうのはちょっとお目にかかれません。浪速のイチビリだって、さすがに初対面の東京娘に「東京の女にトイレなんぞいらんいらん、その辺でさしといたらえぇんや!」とはいいませんしね。イヤ待てよ、言いかねないヤツの顔が何人か脳裏に......。

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