テーマ [ガイディング研究所]
ガイドの一般教養講座 研究発表vol.7:サービスとホスピタリティ その2
文:リュウ・タカハシ
イラスト:Ryoko
2009年7月27日
こんにちは、研究員のリュウです。
現役ガイド時代は、
「休日はとことん休むっ! 筋トレなんてもってのほかっ!!」
でしたが、それでも年中身体ボロボロ。
引退して半年たったらやっと回復してきましたが、一年たったら逆にどうも不調。なるほど、引退したレスラーがすぐ復帰するのは、こういうことだったかと妙に納得。
さらに今年9、10月の一時帰国の際、カヤック仕事が二つほど入りそうな案配。今回は肉体労働しないつもりだったんですけどねぇ。
んなわけで、10年ぶりに筋トレを軽く再開しました。筋肉いじめる楽しさを再確認してる今日この頃。やっぱりマゾなのかしらん、アタシってば???
■ 当講座流「サービスとホスピタリティの定義」 ■
前回は通説に異議をとなえたとこで終わっちゃいましたが、今回は当講座の定義をご披露します。
前回の最後でご紹介したページから得たヒントをふくらませたのが、以下です。
【サービス】
接客の設計図。
マニュアル化可能で、パンフレット、ウェブ、CM、マニュアルなどに明記できる(してある)こと。
【ホスピタリティ】
マニュアルなどに書ききれない、現場での細かい仕上げに相当する接客技術。
マニュアルに書かれた接客設計図は、そのままでは往々にして冷たいものです。お客様に接するとき、温かみのあるもてなしとして提供するために使われる技術がホスピタリティ、というのが当講座の定義です。
ここでもう一つ定義が必要ですね。
【プロダクト】
商品。
物販業の場合は、販売対象物品そのもの。サービスとの区別は比較的明確。
サービス業の場合は、サービスと純粋プロダクトの二つの要素で構成されることが多い。
サービス業は、文字通りサービスそのものがプロダクトなのですが、でも業種によってはサービス以外の「何か」も商品価値をもっていることがあります。その「何か」を純粋プロダクトと呼んでみました。これ、当講座のオリジナル用語です。もし良い言葉があったらご教授ください。
何のことだかよく分かりませんよね。詳しくは以下の例で。
■ たとえ(物販業) ■
ハンバーガー屋などの飲食業はサービス業に分類するのが普通ですが、この講座では「食べ物=モノ」を売っているということで、便宜的に物販業の例として登場してもらいます。
ハンバーガー屋にとっては、ハンバーガーやポテト、ジュースなどがプロダクトです。
そして店員の、
「いらっしゃいませぇ、○○○バーガーへようこそ。ご注文をおうかがいいたしまぁす。
こちらでお召し上がりですかぁ、お持ち帰りですかぁ?
お風呂が先ですかぁ、それともご飯にしますぅ?
ポテトもごいっしょにいかがですかぁ、プリンターとモデムのセットもただいまお買い得になっておりますけどぉ?」
ってなマニュアル通りのセリフや笑顔はサービスです。
いわゆるサービスっていう言葉のイメージとはちょいと違いますが、スケジュール通りの清掃だってもちろん立派なサービスなわけです。
ところがトイレのひどい汚れに気づいた店員が、清掃時間でもないし自分が清掃係でもないのに、こりゃイカンと掃除をしました。これはホスピタリティです。えらい。
あるいはカウンター係が上記の挨拶のあと、小さなお子さんに
「僕いくつ? 四歳? そう、お利口さんだねぇ」
とニッコリすれば、これだってホスピタリティ。
だからといって、
「僕いくつ? 四歳? あらぁ、お若い! 一歳にしか見えませんね!」
などと口走らないでください。逆効果です。
ハンバーガー屋には純粋プロダクトなるものは存在しませんね。
■ たとえ(サービス業) ■
物販業は、上記のように三者の関係がシンプルです。
ところサービス業はサービスそのものが商品ですから、もう少しややこしいです。例をみましょう。
プロレスファンの元シーカヤックガイドが、血迷って現役復帰してグレート・バリア・リーフで「リュウ・カヤックス」ってな会社をたちあげようとしています(この物語はフィクションです)。
もちろんこの場合、カヤックツアーがプロダクトです。
そのプロダクトであるツアーを詳しくみると、「美しい珊瑚礁の海」「抜けるような青空と黄金の陽光」など、人間の力ではコントロールできないもの=サービスではないものが含まれているわけですが、これが侮りがたいほどの商品力を持っているわけです。これを当講座では純粋プロダクトという造語で呼ぶことにしました。
それに対して「行程の組み方」ですとか「食事」、「道具」などは企画段階で熟慮され、ツアー中もガイドが入念にコントロールする部分です。もちろんこれがサービスです。
つまりサービス業の場合、商品=プロダクトは純粋プロダクトとサービスの二つが絡みあってできているわけです。
ただ同じサービス業でも、たとえばホテルを考えてみると、人間にコントロールできない純粋プロダクトに相当する部分はほとんどありません。純粋プロダクトの比率は、業種によって差があります。
さて、実際にツアーに出てみたら、その日は天候が悪く、海もにごってました。お客様ガッカリ。つまり純粋プロダクトに欠陥があったわけです。
こういう場合は、その場でお客様をより楽しませる方法を考え出して、必死にカバーするわけです。これはホスピタリティですね。
これはちょっと極端な例ですが、とにかく現場で臨機応変に商品力をアップさせる(または欠点を補う)接客技術がホスピタリティです。
研究発表vol.5でご覧いただいたように、アウトドアガイドの仕事はマニュアル通りに運ぶことは珍しく、むしろ現場で突発的に対応しなきゃいけないことの連続ですから、ホスピタリティの出る幕の方が圧倒的に多いというのが実感です。
■ どっちがえらいの? ■
最近は、サービスは古い、ホスピタリティがえらい、なんて風潮があるようです。例の奴隷起源説のせいでしょうけど、僕はこれにも反対です。両者はカバーする範囲が違う、いわば表裏一体の関係ではないでしょうか。
「リュウ・カヤックス」にもう一回登場してもらいましょう。
バタバタしてるうちに、あろうことかベジリアン用メニューのことをすっかり失念したまま、記念すべき第一回のツアーを迎えてしまった某ガイド。
こういうときこそマーフィーの法則の出番でして、フタを開けてみれば案の定ベジタリアンご一行様おこしやす。でも用意してあるのは、血の滴る高級ステーキ肉......。
前項の悪天候同様これも欠陥商品ですが、前者が純粋プロダクトの欠陥だったのに対して、こちらはサービスの欠陥。
ガイドが現場のホスピタリティで挽回しなきゃいけないわけですが、でもステーキでベジタリアンをおもてなしってのは、いくらなんでもちょっと厳しいです。でも自業自得だから、お客様に頭コンコンされながらがんばりなさい。
でも現場に出てるのが、雇われガイドだったらこりゃまったくたまったもんじゃないですね。僕も現役時代にその手の「上のミスの尻ぬぐい」をどれだけやったことか。
それはともかく、現場でホスピタリティが機能するためには、その前提としてきちんとした商品が必要なんです。
というわけでホスピタリティとサービスは表裏一体、そこに純粋プロダクトを加えれば三位一体の美しい関係、というわけです。
ところでつい先日、皆既日食がありましたね。皆既日食ツアーなんてあったんでしょうか? あったんでしょうねぇ、やっぱり。それって、商品の目玉が天候に思いっきり左右される純粋プロダクトですよね。サービスやホスピタリティの入り込む余地がすごく小さいわけです。僕だったらそんな恐ろしい商品、ぜったい扱いたくないなぁ。
■ 今回のまとめ ■
- サービスは接客設計図です。
- ホスピタリティは、現場での仕上げです。
- 販売業のプロダクトは、商品そのものです。
- サービス業のプロダクトは、サービスと純粋プロダクトの二つでできてます。
- 牛の死骸で菜食主義者をもてなすのはやめましょう。
■ 次回予告&宿題 ■
まだまだ続くこのトピック、次回は「ホスピタリティとサービス その3」です。せっかくの夏休み時期ですから、宿題はなしにしましょう。
ではまた!
■ オマケ ■
【ガイド小噺こぼればなし 其の四】
しばらく世界中のお客様のお相手をしておりますとですね、ドイツ人とイギリス人とアメリカ人が一目でだいたい区別できるようになってくるんですから、自分でもキビが悪くなることがございます。
特にアタシの縄張りのエイベルタズマン国立公園にアウトドアやりにいらっしゃってるお客様だったら、かなりの確率で当てられます、はい。
どうやって見分けるかって? いろいろですな。表情も違うし、ファッションもけっこう違います。アウトドアルックなんて、万国共通だと思うでしょ? 違うんでございますよ、これが。
たとえば男性の水着。アタシらがガキん頃なんざ、男は皆ビキニブリーフ型の海パンでした。今はとんとみかけませんな。絶滅してくれてよかったよ、あれは。
アタシなんざ流行遅れのオヤヂでございますから、いまだに短めではございますが、それでも一応トランクス型です。でもここ10年くらい、若い連中は膝丈の長いのをはいてるようです。日本はどうでしょう?
ところがですね、まだまだいるんですよ、ピッチピッチのビキニ海パン一丁でうろうろしてる輩が。それもかなりの数! 絶滅? とんでもございません。生ッチロい身体でモッコリで金髪ヘアのギャランドゥ&ハミングで国立公園の景観を思いっきり破壊してくださっていただきまして、まことにありがとうございます、ってなもんでして。
彼ら、ナニジンだと思います?
正解はドイツ人です。なぜなんでしょうねぇ、ピッチピチモッコリハミングさんを見かけたら、まず間違いなくドイツ人ですな。
今年二月、アウトドア・レクリエーション専攻の高校生グループのキャンプツアーのインストラクターをやったんですがね、途中で奇妙奇天烈な一団に出会いました。大雨の中でバカ陽気に大騒ぎしてる、大きなバックパック背負った男性四人組なんですが、頭に月桂冠(酒じゃないですよ)、手にプラスチックのオモチャの剣、雨具は超安物の半透明ビニールポンチョ、足元はトレッキングブーツ、そしてポンチョの下に透けて見えるのは、紺色のスピード社ビキニブリーフ一丁......。Tシャツさえ着てません。クツ、ビキニ、半透明ポンチョ、以上。しかもごていねいにも全員お揃い。あえてナニジンだったかは、いいませんが。
アタシのグループにもドイツ人生徒が何人かいたんで、女の子に「なぁ~んでおたくの国ってあぁなんだ?」とたずねたら、彼女は必死に「私はドイツ人じゃないから知らん」ってな顔をしておりました。さもありなん、きいたアタシが悪かった。
エイベルタズマン国立公園のツーリズム各社は、「男性はスピード社ビキニ着用を禁ず」の注意書き一行をドイツ語でパンフレットに入れること検討しているとかいないとか。スピード駆除は解決の糸口さえ見えてこない難題なのでございます。
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