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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.13:アウトドアガイドって? その2

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文&写真:リュウ・タカハシ
2009年12月11日



■ 夏到来 ■

 ガイディング研究所へようこそ。研究員のリュウです。

 もうすぐクリスマスですね。ニュージーランド(NZ)はキリスト教国ですから、初夏の開放感とあいまって、浮き立ち具合は日本の比じゃありません。
 さらに子供たちにとっては学年末で、しかも夏休み直前。宿題なんて野暮なモノもありませんし、二月になれば新学年に進級ですから、まさに「盆と正月がいっしょに来たような」感じで、ガキどものテンションの高いのなんの、イヤハヤ......。

 現役ガイド時代は、クリスマスも正月も返上で働きづめでした。この時期に休める今の仕事は、本当にありがたいです。



■ アウトドアガイドって? その2 ■

 さてさて。
 前回の最後に、「次回は今回の続き」と予告しましたが、ごめんなさい、諸般の都合で急遽変更です。予定通りにことが運ばないことに関しては、アウトドアツアーそっくりです。

 ずいぶんと間が開いてしまいましたが「研究発表vol.5:アウトドアガイドって? その1」の続きをお届けすることにしました。その1では仕事内容をリストアップしましたが、今回は別の切り口でいきましょう。

 おぼろな記憶を掘り起こしてみると、僕が主宰しているプロガイド・ワークショップ(PGW)の初期には、「プロとアマの違い」、「ガイドとインストラクターの違い」といった話題で講義をはじめていたような気がします。
 さすがに最近ではかなり理解されてきたようですが、こうした違いがあることさえ意識されていなかった頃もあったんですよ。とはいっても、そんな昔じゃないですよ、今世紀になってからの話ですから。

 ま、それはともかく、当研究所でこの対比によるガイド研究を再現してみることにしました。



■ ガイドとインストラクター ■

 上記のように業界内では、これらの違いが理解されてきたような気がします。でもお客様(消費者)には、まだまだ浸透してませんね。
 無理もありません。その1で見たように、実際にはガイドはインストラクター的な仕事をしますし、その逆も珍しくありませんから。

 ただ純粋な意味では、ガイドとインストラクターはやっぱり違います。ちょっと定義づけしてみましょう。



【インストラクター】
教師。教官。お客様(=受講者)の技術・能力アップが仕事。

(例)シーカヤックインストラクター:シーカヤック技術、安全技術、ツーリング技術などを教えるのが仕事。



【ガイド】
観光業、サービス業。お客様(=ツアー参加者)に楽しみを提供するのが仕事。

(例)シーカヤックガイド:シーカヤックで楽しく遊んでもらうのが仕事。



 もっと身近な例をあげてみましょう。
 中学校の遠足で、美人バスガイドが面白可笑しく史跡を紹介し、生徒は笑って聞いてます。これ、文字通り「ガイド」の仕事。
 それを聞いてた先生、こりゃちょうど昨日歴史の授業で教えたとこだと、マイクを借りて彼女の話と昨日の授業内容の関連を説明しはじめました。これは「インストラクター」の仕事。

 バスガイドは、生徒が楽しんでくれればOK。
 先生だって生徒が楽しめばそれに越したことはありませんが、優先事項は生徒の知識を増やすこと。
 これがそのまま、ガイドとインストラクターにばっちり当てはまります。

 前述のように、実際にはこの二つを混ぜて我々は仕事をします。
 たとえばアウトドアスクールインストラクターが、野外料理をふるまうこともあるでしょう。これってガイド的業務です。
 観光地ガイドと比べると、エコツアーガイドは啓蒙・教育つまりインストラクター的要素が濃くなる傾向がありますし、カヤックや木登りなどの特殊なアクティヴィティのガイドには、観光地の遊びツアーといえども、安全技術講習(インストラクター業務)にかなり時間を割かざるを得ない宿命があります。

 ですからガイド色とインストラクター色のブレンドのさじ加減が、そのガイド(インストラクター)や業者の個性になる、ともいえますね。



■ ガイドとアマチュアツアーリーダー ■

 海でシーカヤッカーのグループに出会ったとき、ガイド率いる商業ツアーなのか、アマチュアグループなのか、見分けはなかなか難しいです。山歩きのグループもしかり。

 でもいくら外見が似てても、実は雲泥の差があります。
 ガイドが連れてるのは、お金を払った「お客様」。ガイドは「仕事」としてグループを統率し、「報酬」を得ています。
 対するアマチュアリーダーは、他のメンバーと同じくグループの一員です。基本的にリーダー役は「ボランティア」であり、「無報酬」です(こう言い切れないグレーゾーンのグループもありますが、先ほど同様に曖昧な例は除外して考えましょう)。

 つまり、ガイドには顧客一人一人に対して大きな「業務上の責任」がありますが、アマチュアリーダーにはそこまでの責任はない、ということです。

 ということは、ガイドは必ずしもツアーを楽しむ権利を有していません。楽しむ権利があるのはお客様です。お客様を楽しませるためには、自分の楽しみは当然犠牲にしなくてはいけません。ビヨンセそっくりのトップレスがいても、お客様を押しのけて見物に行ってはダメなんです、悲しいことに......。
 でもアマチュアリーダーは、もちろん自分自身がツアーを楽しむ権利をもっています。他のメンバーのために犠牲になる必要はありません。他のメンバーを押しのけて見物に行っても良いんです。くっそぉ、いいなぁ、それ。

 ガイドとアマチュアリーダーの間には、越えがたい深くて広い峡谷が横たわっているんですね。



■ ガイドと冒険家 ■

 冒険家は、アスリートです。記録を追う人です。アドレナリン・ハンターです。前人未踏、人類初、単独、厳冬期などの言葉にクラッとくる人です。

 こうした「記録への誘惑」って誰にとっても魅惑的なものだと思うんですが、ガイドにとってはこれが恐るべき「罠」のようなものなんです。
 僕自身も仕事中に何度か些細な「新記録」を作ったり自己更新したりするチャンスがあったんですが、そういう時ってやっぱり変な色気が出てて、ひょっとすると危なっかしいガイディングをしていたかもしれません。今思い返すと冷や汗がでます。
 冒険とガイディングは、両立しないと痛感します。

 「成功」の定義も、ガイドと冒険家では大違いです。
 冒険家にとっての成功は、計画したエクスペディションの完遂。悪天候、怪我、病気、道具の欠陥、理由はなんだろうと、撤退・中断イコール失敗です。
 ところがガイドにとっては、お客様を無事に連れ帰り彼らがハッピーならば、それが行程半ばの中断撤退だったとしても「成功」です。逆に計画にこだわって踏破した結果、お客様にムリをさせすぎたり、怪我人出しちゃったりしたら、そりゃ立派な失敗です。

 ですから一番差が出るのは、「引き際」でしょう。当然冒険家の方が無理をします。
 さらに撤退の決断を下すときも、冒険家が天秤にかけるのは「状況」と「本人の能力」ですが、ガイドが天秤にかけるのは「状況」と「お客様の能力」です。

 というわけで、この両者は全く違います。もちろん適性も正反対というくらいに違うと思います。僕が尊敬している冒険家に「リュウさん、僕には絶対にガイドはできません」といわれたことがありますが、僕はそのとき逆に「いやぁ、僕にはぜったいアナタのような冒険は無理です」と答えたものです。



■ 今回のまとめ ■

  1. ガイドは、エンターテイナーです。
  2. インストラクターは、教官です。
  3. アマチュアリーダーは、大変ご苦労様です。
  4. 冒険家は、死なないように気をつけてください。
  5. 上記四つは、それぞれかなり違います。
  6. たまぁに全部こなせる人がいますが、これぞホントのスーパーマンです。


■ 次回予告&宿題 ■

 研究発表vol.5:アウトドアガイドって? その1では、「二回に分けて、アウトドアガイドなる生き物を研究」と書きましたが、今回の補足的なモノをもう一回やってみたいと思います。
 でも前回の続きの「ガイド志望なんですが」#02もお届けしなくてはいけませんし、他にも「続きはいずれ」となっているトピックがありますね。
 今のところどれを取り上げるか未定です。開けてみてのお楽しみということでご勘弁を。

 NZの夏休みにならって、宿題はなし。年末年始、ゆるりとお過ごしください。
 では、良いお年を。来年また!



■ オマケ ■

【ツアー写真 #002】

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【ツアー写真 #003】

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 エイベルタズマン国立公園は、特別動物が多いとこってわけじゃありません。でもオットセイなら繁殖コロニーで年中見られますし、運が良ければイルカやクジラにもお目にかかれるんですから、やっぱり恵まれたところで働かせてもらってたんですね。ありがたいことです。

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