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ガイドの一般教養講座 研究発表vol.6:サービスとホスピタリティ その1

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文:リュウ・タカハシ
イラスト:Ryoko
2009年7月13日


 おこしやす、研究員のリュウです。

 論文らしからぬ発表が続き、僕のあふれんばかりの無教養がいかんなく発揮されまくりの今日この頃、いかがお過ごしでしょうか? はい、おかげさまで。

 と、ますます品格あふれる書き出しからはじまりましたが、今回は一味違います。アカデミック風味を通常比30%増でお届けします。

 あ、そうそう、vol.4で「ゆくゆくは月刊化」と書きましたが、編集長から

最新の記事を読んでて、ぜひ続きを早く読みたい 読者代表としては頻繁な更新、あるいは、せめて隔週切望です(笑)

とのお達し。
 なんだかうまくオダテられてるような気もしますが、ガイドって生き物はこういうのに弱いんっす。
 了解しやした、可能な限り「オープン記念サービス隔週連載」を続けてみやす。いつまで続くやら知りやせんが。



■ サービスとホスピタリティ ■

 「サービス」はもう完全に日本語になってますが、最近は対抗馬の「ホスピタリティ」が伸びてきてるようです。ホンット横文字好きですねぇ。
 ま、それはともかく、この二つをみかけることが多くなってきてますから、当講座でもちゃんと定義しておきましょう。

 ほら、定義ときました、ね、アカデミックでしょ?



■ サービスの語源? ■

 ちまたでよく見かける定義は、「サービス=主従関係」、「ホスピタリティ=対等関係」というもの。serviceの語源「奴隷」が根拠だそうです。



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 ですが短小突入......、もとい、単刀直入に申しあげて、これには大いに疑問あり!
 だって、なぁ~んでいきなり英語の語源なんぞが出てくるんです? 英語圏だったら奴隷ってニュアンスに共通理解がありますから、たしかに説得力あるでしょう。
 でも今の日本で、サービスって聞いて奴隷や主従関係を連想する人、いらっしゃいます? いたら気味悪いなぁ。日本人だったら、むしろ割引とか無料を思い浮かべませんか?

 ものはついでです、英和辞典でserviceをひいてみましょう。ひきました? 面白いことに気づきませんか? そうなんですよ、割引とか無料なんて意味はないんです。
 そのかわり意外な意味が満載です。
 護衛官のことをシークレットサービスって呼ぶ理由が分かりましたね。
 兵役って意味知ってました?
 畜産では種付け、交尾だなんて、ちょっとトリビアでしょ? まぁアレって確かにサービスといえばサービスですかね、でもどっちがどっちにサービスしてるのかな?
 などと、この単語だけでしばらくは遊べます。
 じゃ、ちなみに英語で割引はどういうかというとdiscount、無料ならfree (of charge)が、たぶん一番普通の言い方だと思います。

 おっと教養がチョビッとあふれてしまいました。話を戻します。
 ご覧の通り、サービスという言葉は、元のserviceとはかなり違う意味で定着してます。いわゆる「Engrish」とか「ジャパングリッシュ」とか呼ばれる和製英語の一種に近いようですね。
 そんな言葉の定義に、いきなり元の単語の語源を持ってくるなんて、無理ありまくりのコジツケじゃないっすか?
 前提がコジツケなら、「ホスピタリティ=対等」説も成り立ちません。

 というわけで、この説は日本ではちょいと苦しすぎる、ってのが当講座の見解です。



■ お客様は神様? ■

 「でも、日本じゃ『お客様は神様です』っていうよ」

 確かにこれがモットーのお店はたくさんあるようですし、本気で自分を神様とカンチガイしてるアホな客もときどきいます。特に○○人と△△△△人によく見られますね(好きな国名を入れてみよう)。

 「だったら、やっぱサービスは主従関係じゃん」

 なるほど、そうきましたか。なかなかいい切り口ですね。
 でも僕はそうは思いません。だって主従関係ってのは、人間関係でしょ? 主も従も「人」じゃなきゃ。
 ところが「お客様は神様」ってのは神と人の関係ですから、こりゃ宗教関係です。



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 なんかRyokoが吐くまで、じゃなかった、Ryoko画伯までツッコミにくいボケをかましてくれて、どうにも収拾がつかなくなりそうな雰囲気になってまいりましたが、いやジョーダン抜きの真面目な話でも、やっぱりこれって人間関係とはちょいと違うと思うんです。
 だってこういう店(業者)って、実は「客の持ってる金」に対して頭を下げてるでしょ。略さずに書けば
「お客様のお金は神様です」
です。
 だから金と店員が主従関係で、客は主どころか無視されてます。レジに並んだ客だけに「いらっしゃいませ」というコンビニなんて典型例です。
 こういうのは人間関係じゃなくて、拝金主義だと思います。人をもてなすサービスやホスピタリティとは、まったく次元の違う話ですね。

 ついでに逆から考えましょう。
 客が本当に「神様」とか「ご主人さま」として扱われていると感じていたとしたら、なんでホスピタリティが流行るんですか? 「ていねいに扱われてない!」と感じていたからこそ、新しいコンセプトが受け入れられたんじゃないかと思うんですけど。
 やっぱり神様は金だったんですよ。

 というわけで、この論法でもサービス主従説は崩れます。

 ここでまた脱線。当研究所は脱線しまくりです、シートベルトはキチンとお締めください。
 この言葉はもともと歌手三波春夫氏の決めゼリフですが、おもしろいもの見つけました。

 ◎ 三波春夫オフィシャルサイト「『お客様は神様です』について」

 三波氏は、ぜんぜん違うニュアンスで使ってらっしゃったようですね。
 ま、言葉ってのは、一人歩きしてるうちに変身しちゃうものですからね、こればっかりは仕方ありません。



■ 当講座流の定義 ■

 じゃ、そろそろ当講座の定義にいきましょう。
 まず、僕が考えをまとめるときに役立ったページをご紹介します。

 ◎ 日本総研「挨拶の背後にあるもの <前編> -サービスとホスピタリティの違い-」

 サービス主従説が出てきますが、そこは軽くスルーして読みすすめると、最後の方に「あっ、なるほどっ!」ってな良いことが書いてあります。
 それをヒントに独自にアレンジしたのが、以下の定義です。

 え? あ、もう時間ですか?  いやぁ、ここからが良いところだったんですけどね、残念です。次回に続く、ってヤツですね。



■ 今回のまとめ ■

  1. serviceは主従関係かもしれませんが、サービスは違います。
  2. hospitalityは対等関係かもしれませんが、ホスピタリティはどうでしょう?
  3. 「お客様は神様です」は拝金関係です。
  4. 三波春夫氏は、草葉の陰で泣いていらっしゃるかもしれません。
  5. 良いとこで「次回に続く」を繰り出す名人は梶原一騎氏でした。研究員リュウも彼に続けと、鋭意研究中です。


■ 次回予告&宿題 ■

 僕の芸風は、そろそろお分かりですよね。次回は今回の続き、なんてはずはありません。
 その通りです、次回のテーマは「ホスピタリティとサービス その2」といきましょう。裏をかくのが僕の芸風ですので。

 宿題。前回の宿題と同じですが、もう一回サービスとホスピタリティの定義を考えておいてください。特に前回の宿題で、主従&対等説を書き出した人は、あらためて頭をひねりなおしてみましょう。



■ オマケ ■

【ガイドのトリビア #002 名前の覚え方 其の壱】

 「お客様の名前が覚えられない。良いコツはないですか?」
 プロガイド・ワークショップで、よく出た質問です。
 ハリウッドの新人ガイドたちもたいていこれで悩んでましたし、最初は僕もえらく苦労しまして、確か三年目のカスタマーケア・トレーニングのときに、講師に「お客様の名前を覚えるコツを教えてください」って質問したのを覚えてます。

 アウトドアガイドには、「客の名前? 興味ねぇ」ってな芸風の方もいらっしゃるようですが、とんでもないっす!
 まず第一に、接客業なんですからお客様の名前を覚えなきゃ失礼。ホスピタリティ以前の基本中の基本です。
 第二に、アウトドアガイドは危険回避のために、とっさに「○○さん、危ない、伏せて!」って叫ぶ必要性が、タウン系観光ガイドよりもはるかに高いんです。名前を覚えないで、どうやって危機管理するんでしょう?
 「あぁ、えっと、そこの白いシャツのお客さん、いや、あなたじゃなくてもう一人の白シャツの人、そうそう、そっちのあなた、あのね落石ですよ......、って、あぁ間に合ってませんね、私、あぁ~あ、赤シャツになっちゃって......」
って、これじゃモンティ・パイソンです。

 僕も苦労の末、最終的には同僚たちが舌を巻くほど名前覚えが早くなりました。いくつかコツを書いてみます。

 今回はまず、大前提の鉄則を。
 人間って読んだだけ、聞いただけじゃ、なかなか覚えられないんです。
 お客様の名前を口に出し、それを自分で聞いてもう一回脳ミソにフィードバックすると、記憶の効率がグンとアップします。当たり前のことですが、これが一番大事。
 書くのもそれなりに効果があるそうですが、口に出すのには全然かなわないんだとか。

 ですから顔と名前を一致させたら、すぐに「あのね、田中さん」「ところで田中さん」と、呼びかけまくるのがポイント。記憶を手っ取り早く定着させるには、これしかないです(たぶん)。
 ツアー中に忘れて、恐縮しながらもう一回名前を聞きだし、「やっぱもっと呼びかけなきゃダメだ」と思っても、なかなか途中からできるもんじゃないですよ。だって不自然丸出しですもん。
 逆に最初っから呼びかけまくって、「このガイドさんは、やたら名前を呼びかけてくる芸風の人なのね」と思わせちゃった方が、はるかに合理的です。



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 いや、冗談抜きでこういうことも何度となくありましたね、そういえば。イスラエル人とかインド人とか......。

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