コラム [Viva New Zealand]
オモチャの図書館
文&写真:リュウ・タカハシ
2011年8月24日
赤ちゃんの誕生は、人生最大の事件の一つです。
小さな子のいる暮らしはとっても素敵なんですが、子供のモノがあふれるのはいささか閉口モノ。ついこの間までスッキリしたインテリアだったのに、子供服とオモチャに埋めつくされてアバンギャルドな原色空間に変貌......。どこのお家も大同小異でしょう。
とはいえ愛するわが子のためです、散らかる、けばけばしいの二点は我慢するとしましょう。
でもオモチャには、もう一つ厄介なとこがあります。そう、すぐ飽きちゃうんです。それも喜ばしい成長の証しと思うことにしてますが、でも買ったばっかのオモチャが放り出してあると......。
そんな親御さんたちに、ニュージーランド(以下NZ)には強い味方がついてるんですよ。なんだかTV通販みたいですが、別に何も売りつけやしませんからご安心を。
「トイライブラリー」という施設は、文字通りオモチャの図書館のようなとこです。
◎「TOY LIBRARY FEDERATION OF NEW ZEALAND」
このサイトによりますと、世界大恐慌を期に1934年にアメリカでインターナショナル・トイライブラリー・アソシエーションが設立されたのが発祥だとか。時代を先取りしてるとこも、いきなりインターナショナルと名づけるところも、すごくアメリカ的ですね。
ホントに国際的に普及しはじめるのは60年代の終わり頃。
NZでは1972年に企画がスタートし、2年後に北島ハミルトンで最初のトイライブラリーがオープンしました。それから37年たった今では、人口430万人の小国に220ものトイライブラリーがあります。
ピンと来ませんか? じゃ、もっと身近な例で。
NZの総人口は横浜市の1.16倍ですから、220を1.16で割ると、横浜市に190くらいのトイライブラリーがある計算になります。そこで横浜市立図書館の数を調べてみると、移動図書館をのぞけば18です。
イメージわきました? けっこうスゴイと思いませんか?
他国は知りませんが、NZではそれぞれが独立して運営しているので、仕組みは町ごとにちがうそうです。
たとえば職員を雇ってるところもあれば、ボランティアのお母さんたちだけで運営しているところもあります。
年会費は高いけど貸出無料っていう料金設定もあれば、年会費が安くて貸出有料ってところもあります。
こんな風に多少の差はありますが、どの町にもオモチャを安く借りられて、飽きたころに返しちゃえる施設があるんですから、アバンギャルド解消にはピッタリです(我が家がいまだにアバンギャルドなのはなぜ???)。
さて、ここからはわが町のモトゥエカ・ディストリクト・トイライブラリー(以下MDTL)をご紹介しましょう。
MDTL外観。日本の町では考えられないほど広い広い駐車場があるのも、NZのド田舎ならでは。
わがモトゥエカは人口8,000人程度の小さな村ですが、MDTLは全国トップクラスの充実度、利用度、活動状況を誇っている優良ライブラリーです(エッヘン!)。
ボランティアだけによる運営で、家人Ryoko画伯ももうずいぶん長いことボランティアで貸出業務を手伝い、数ヶ月前からはコミッティー委員として運営にも参加するようになりました。面白いこと、頭をかしげること、イライラすることなんかがいろいろあるみたいです。そのうち『ニュージーランド 歯を食いしばってのんき暮らし』で報告してくれると思いますので、お楽しみに。
MDTL内部。Ryoko画伯お仕事中。
通常年会費がNZ$20(ただしこの9月から$30)、オモチャ貸出料金は$0.50から$5、貸出期間は2週間というシステム(ちなみに今の為替レートはNZ$1が65円前後)。
オモチャ数は約1,100点ですが、MDTLは対象年齢を全国標準の五歳以下よりも少し高く十歳以下と設定していて、よそよりラインナップが豊富なんだそうです。詳しくは文末の写真ギャラリーをご覧いただきたいのですが、オモチャ屋さんにあるようなものはだいたい一通り揃っています。
貸出業務もボランティアの主婦が交代でやるんですが、返却品のチェックははんぱじゃない手間ひまがかかるようです。右がその様子ですが、ジグソーパズルやレゴなんかの数百アイテムを一つ一つチェックするのは気の遠くなるような作業ですし、子どもが利用者ですから部品の紛失やダメージも日常茶飯事で、修理や弁償請求も大変です。図書館職員である僕の目から見ても、ホントよくやってるなって感じ。ご苦労様です。
でもボランティアのお母さんたちも、トイライブラリーのありがたみをよっく知ってるからこそ、がんばれるんですね。母は強し。
赤ちゃんの頃からMDTLのお世話になってる我が子たちを見てますと、面白いことに2歳前には「借りたオモチャは返さなきゃいけない」ってルールを理解し、3歳前には自分のオモチャと借り物の区別もつくようで、公共意識の芽生えの早さには驚かされます。
あと、オモチャって「親が作る」か「誕生日とクリスマスにもらう」か「トイライブラリーで借りる」ものだと思ってるようで、お店で「買って」とせがまないのも助かります。その代わり3歳の長男は、どんなお店でも貸出があると思ってて、本屋で「この本かりて!」とねだるんですけど......。
このシステムがなぜ日本で広がってないのか知りませんが、5年前に別媒体で同様の紹介記事を書いたときには相当な反響があり、J-Waveから電話インタビューを受けたこともあるんです(僕を生放送でしゃべらせるんですから、とっても勇気のあるラジオ局です)。関心は高いと感じました。
特に被災地の東北地方なんて、トイライブラリー巡回バスが喜ばれるんじゃないでしょうか?
オモチャメーカーさんにとっても、たくさんトイライブラリーができれば、売り上げがアップするはずです。だって買うのはためらわれるけど、安く借りられるなら試してみたいオモチャって、たくさんあるでしょ? その手のオモチャはトイライブラリーの人気アイテムになります。
今からでも遅くないと思います。日本にはせっかく素晴らしいメーカーさんがたくさんあるんですから、協賛をお願いして起ち上げてみてはいかがでしょう? e4トイライブラリーってのはどうです?>編集長
以下はMDTLの写真ギャラリー。くりかえし申し上げますが、人口わずか8,000人の村でこの充実ぶりってとこに注目を!
幼児対象の棚。
赤ちゃん用バウンシーチェア。ガラガラ、モビールなどの新生児用品も充実。
赤ちゃん、幼児向けのパズルやゲーム類。
パペット。パペットシアターとセットになってて、人気アイテムだそうです。
日本の狭いマンションでは、借りるのもためらうような大型のオモチャ。
少し大きな子供たちを対象にしたボードゲーム類。
キウィは仮装パーティが大好きで、大人でもよくやりますが、もちろんトイライブラリーにも衣装が揃ってます。
DVD、CD、ビデオ類も抜かりなく。
貸出デスクは、一般図書館とあまりかわりませんね。
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