カルチャー [書評]
丹羽隆志の日本ベストサイクリングコース10 [著]丹羽隆志
文・写真:内田一成
先年、じつに16年ぶりに再会して、同じプロジェクトにしばらく取り組んでいたサイクリストの丹羽隆志さんが本を出版した。
本来は、一緒に取り組んでいたプロジェクトの一環として出版される予定になっていた著作で、プロジェクトそのものが頓挫してしまったときに、丹羽さんは、それに腐ることなく、自分が世に送り出したい内容に自信を持って、それを形にすることが自分の責務だと頑張って、今回の出版までこぎ着けた。
そんな事情を知っていることもあって、その作品はぼくにとってもとても感慨深いものだった。
丹羽さんといえば、学生時代からサイクリングを始め、世界各地、日本全国、どこでも自転車で走り回るだけでなく、自転車で旅をすることの楽しさをみんなに伝えることを自分の使命として、数々の楽しいツアーを企画してきた。
ぼくも、「東京シティライド」というツアーに参加させてもらったが、東京の「路地裏」に視点を置いて、自転車の機動性と気軽さ、そして周囲の人に対するフレンドリーさを生かして、和やかに探索する旅は、今まで経験したサイクリングにはない楽しさを味わわせてくれた。
それから、丹羽さんのツアーでとても印象的だったのは、もう10年くらい前にNHKで放送されたドキュメンタリー。たしか中学生だったと思うが、10人くらいの子供たちを引き連れて、北海道を自転車で縦断するツアーのドキュメンタリーで、初めて長距離を自転車で旅する子供たちを励まし、一緒に様々なことに感動し、けして高みから「指導」するのではなく、子供たちと同じ「体験者」として、子供たちと同じ目線で旅を続けていく姿が、とても純粋な彼らしかった。
スピードを求めるのではなく、距離を伸ばすことを目的とするのでもなく、日本という国が秘めた様々な「かたち」......自然や文化、歴史、人情等々......をじっくり味わうために、自転車はあくまで「道具」として生かし切る。そんな視点から編まれたこの本は、ガイドブックではあるけれど、ただの観光ガイドなどとはまったく違って、丹羽隆志という人間の「日本観」を紹介する深い物語になっている。
本編と地図の注記はすべて日本語と英語のバイリンガル表記で、このままグローバルなガイドブックとしても構成されている。
何度も何度も本人が走って、彼のツアーでも人気を集めるコースから、日本各地のそれぞれの「かたち」がとくに顕著で味わい深い旅のできるコースを10本紹介している。
昨日、ヤマハのPASという電動アシスト自転車で、原宿からさいたままで、「プチサイクリング」で戻ってきたら、ちょうどこの本が届いていた。
昨日は、この本を携え、PASで近所の花見スポットを巡りながら、記されたコースをイメージしていた。
そのまま、旅に出たくなってしまった。
**コースのクライマックスは、観光名所ではなくて、その土地の「かたち」が現れている典型的な風景。なんとなく、宮本常一を連想させる**
**コースの難易度の一つの指標にもなる高低差も細かく掲載されている**
**一つ一つのカットが丹羽隆志視点で、自分が今まさにそこにいるような臨場感がある**
**とくに地図にはこだわりがある。見やすいカラーと注記、そして見落としやすい場所はコマ図が用意されている**
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