カルチャー [書評]

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社員をサーフィンに行かせよう-パタゴニア創業者の経営論 [著]イヴォン・シュイナード

内田一成

社員をサーフィンに行かせよう

 アウトドアクロージングのトップメーカーであり、環境問題への取り組みや独自の社会貢献に根ざした経営理念から、常に全米の「働きたい会社トップ100」に名を連ねる『パタゴニア』。

 その創業者であるイヴォン・シュイナードの半生記であり、また経営哲学を語り尽くした一冊。

 自らが、クライマーとして最高の道具が欲しいと作り始めたピトン(ハーケン)が成功を収め、シュイナードイクイップメント社を設立。その後、クライミング、サーフィン等のクロージングをこれもまた自分のニーズに合わせて作り始めて、それがアウトドアアクティビティの最先端にある人々に受け入れられ、気がつけば、トップメーカーにまで成長していた。

 今では、パタゴニアといえば、そのエコフレンドリーな商品群と知的なデザインが、アウトドアシーンだけでなく、エコロジカルでサステイナブルなライフスタイルを指向する人たちに受け入れられ、パタゴニアを着ることが、一つの思想表現であるといっても過言でないほどのブランドとなっている。

 ぼくは、もう20年以上も前にシュイナードイクイップメント時代のアタックザックを購入して、長い間愛用していた思い出がある。それは、「常に最高の品質と耐久性を目指す」というシュイナードの哲学がそのまま商品になったような製品で、どんなにラフに扱っても壊れず、常に最高の背負い心地のザックだった。

 今では「フリース」といえば、防寒インナーの代名詞のようになっているが、これを最初に開発したのもパタゴニアだった。ペットボトルを再生して作り出したフリース素材の「シンチラジャケット。まさに、パタゴニアのエコフレンドリーなコンセプトを体現し、今に繋がるパタゴニアのイメージを確立したエポックメイクな製品だった。

社員をサーフィンに行かせようカバー
**表紙カバーのパイプラインを潜るサーファーはシュイナード自身。伝説的な人物となった今でも、まだまだ現役だ**

 カタログや通信用の封筒に再生紙を使うことを最初に始めたのもパタゴニアだった。

 単に最先端の材料で最良の製品を作るだけでなく、企業姿勢も常に最先端でありたいと希求し、それを確実に実践するパタゴニアのバイタリティ......というか、自然体なスタイルがどこに根ざしているのか、本書には、そんなことがとてもよくわかるメッセージがたくさんこめられている。

 自分たちは自然の中に身を置くことで喜びを感じたい。そのためには、良い風が吹いて、最高のライディングが期待できる波が立ったら、即座に海へ走ってサーフィンしたい。そのために、会社はサーファーにとって最高の波が立つ場所にあって、いつでも仕事を中断して波に乗りにゆける自由を保ち続けたい。

 実際、パタゴニアでは、仕事は基本的にフレックスタイムであり、いつでもサーフィンをしに行く自由がある。もちろん、サーフィンだけでなく、それがクライミングであっても、マウンテンバイクであってもかまわない。

 そうして、いつでも自然の中に飛び出していける環境にあるからこそ、仕事を最大限の効率でこなすバイタリティと、互いにフォローし合うチームワークが生まれるのだと、シュイナードは解く。

 本書を読み進めていくと、いまや偉大な「ナチュラリスト」の一人となったシュイナードの自然体の生き方への深い共感に包まれる。そして、彼が率いるパタゴニアが、どうして今の時代に広くユーザーに受け入れられているかが納得できる。

 「ビジネスは(地球)資源に対して責任がある。自然保護論者のディイビッド・ブラウアーは『死んだ地球からはビジネスは生まれない』と言った。健康な地球がなければ、株主も顧客も、社員も存在しない」

 「環境」という言葉があまりにも軽々しく使い回されて、『環境ビジネス』がなにやら胡散臭い響きに感じられるような世の中にあって、堂々と「環境」を守ることが自分たちのビジネスを支えるのだと宣言できる......そんなパタゴニアのスタンスが、とても羨ましく思えてしまう。

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