コラム [編集長「泡盛談義」シリーズ]

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第2回 どんぐり研究所主任研究員 大石泰輔さん(その2)

大石さん

大石泰輔さん
1954年、香川県生まれ。京都府立大学大学院農学研究科林学専攻修了。
某県庁に勤めながら、自然観察会運動、市民参加の森づくり運動で活躍。最近は自称どんぐり研究所の主任研究員として、「人と森の絆を回復するために 森の気持ちを理解する 誰でも入門できる森林道場」を展開中。顔出しNGのはずだったが、お酒のせいか、早々にOKが出た。

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-- 里山は、15年ごとに伐採したり、人間が手を入れることで、伐り株からまた芽が出てきてってことが繰り返されるサスティナブルな森って言われますよね。

大石 人間が長い歴史の中で、自然の特性を理解して循環型の社会を作ってきた例だね。それが今でも実現可能ならこれは素晴らしいこと。しかし、15年ごとにきちんと伐採してという作業を支えていたのは、それが炭や木材に形を変えて売れるという背景。今は、伐ったところでもうどこにも持って行きようがないんだよね。コストがべらぼうにかかるし。昔の里山を再生しよう!ってことで一部でモデルの森を作ることはできても、大きな動きにはならない。伐った樹を使うところが無い。

-- 伐る理由がないわけですか・・・。

大石 ひとつの案としては政策レベルで代替エネルギーとして、伐った樹をペレット化して、ペレットストーブやボイラー、オーブンで燃料にして使い、脱化石燃料というのを目指してもらう。北欧などは脱石油の国策として大々的に進められてる。日本でもかけ声はずーっとあるし、ペレット工場もあちこちにできてるんだけど、普及レベルには程遠い。去年のような原油高騰が続けばまた違っただろうけどね。どうしてもカロリーベースで木材の方が石油に比べたら低いし。けど、コスト面が解決したとすると、今の石油を国産材での木質燃料に変えたら、またあっという間に禿山になるよ(笑)。 里山をサスティナブルに活用するには人口が多すぎるし、燃料消費が激しすぎるねぇ。

森

-- では、二番目の側面。人間が利用する森という観点からは、森は荒廃してるんですか?

大石 山村の暮らしを支える生活基盤や経済基盤としての森だね。さっきも言ったように、昭和天皇が全国周って、植樹祭して禿山に樹を植えていったんだけど、昭和30年頃にはもう全国に植えてしまった。昭和30年代以降は高度成長の中で、建築用材が圧倒的に足らないってことになった。それまで広葉樹林、炭や薪に使われていたところが、もうエネルギー革命後で用済みになっていたので、根こそぎ伐採してスギ、ヒノキ、マツなんかをどんどん植えていった。これが昭和45年ごろまでに植え終わったんだけど、もっと木材必要ってことで、今度は標高が1,000m超えるようなブナ林などの落葉広葉樹林帯をバカスカ伐りまくったわけ。で、白神山地や知床なんかで自然保護運動がおこった。

-- なんとかそこでストップかかったんですね。

大石 それが、基本的には国の政策はまだ変わってないんだよねぇ。今でも森林整備関係だけでけっこう予算ついてるし。人工林の間伐を一気にやっちゃえとか。話が昔に飛ぶよ。山林所有者はそれまで生活の糧は炭焼きだったんだけど、エネルギー革命でこれに変わる糧が必要だった。国の政策としては、スギ、ヒノキを植えたら何十年後かには何百万、何千万と売れるよ!という夢をばらまいた。植えるのも、手入れするのも半分は国の補助が出ますよ!っていう宣伝をしまくった。ところが、現在では国産材が売れない。外国の安い木材の前では、高い労働コストをかけていては売れるわけがない。高齢の従事者が一所懸命伐って市場に出しても二束三文というのが現実。

-- なるほど・・・。

大石 で、今の国策だけど、間伐されてないってことで、今度は半分じゃなくて7割補助するから手入れしようというのが出てくる。けど、今の山林所有者はたとえ3割負担でも出す人は少ない。林野行政が時代に合わなくなってきていると。

-- なんとかならないもんなんですかね?

大石 今の人工林は個人所有のところでも大半は半分以上国の予算を使って植えて維持してきたものだから、政策転換して国家資源として責任持って管理するしかないのかもなぁ。輸入木材にだけ頼るのもリスクあるので、将来への備えとして最低限の手入れを国の責任でするのもひとつ。所有権は個人のままで、管理権は国に委譲するとかね。あくまで山林所有者個人のビジネスとして進めていくのは既に限界超えている。夢ばら撒いて、広葉樹を切りまくったことを反省せずに、その延長の政策をまだやってるのが現実なんだよねぇ。

-- 所有者の問題もあるんですか?

大石 日本の山って、住宅地なみに地番が分かれてるんだって知ってた?で、おじいさんが死ぬとまた相続で地番が細分化されて、短冊みたいな土地だらけになってる。歴史が古い瀬戸内海沿岸の山はもう細かすぎて、境界もはっきりしないし誰もわからない状態。紙の上だけなら線が引けるけど、現場はもう無理(笑)。こうなってきたら誰も手入れせんわ。こんな山がたくさんある。これも政策的にどうにかしないと無理。日本の国土管理って、もうめちゃくちゃ。

-- では、話まとめるみたいですけど、山村の暮らしを支える生活基盤としての森は荒廃してるんでしょうか?

大石 生活基盤としての森というのはあらゆる意味で著しく荒廃していると言えるね。手入れもされてないし、所有者も細かく土地が分かれて遠い都会に住んでて、森から人がいなくなっている。人工林としては厳しいね。

(つづく)

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