コラム [編集長「泡盛談義」シリーズ]

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第2回 どんぐり研究所主任研究員 大石泰輔さん(その1)

大石さんと出会ったのは13年前。コンピュータメーカーを退職して故郷に戻った僕に、森の面白さや身近な自然の深さを教えてくれた恩師の一人です。公務員らしからぬ(?)、その市民目線と、同じ地球を生きている仲間としての動植物への愛情に、全国の森の仲間が共感しています。

大石さん

森田(以下--) 体調崩されていたようで。

大石 ちょっと発熱が続いてねぇ。ぼちぼち回復気味。

-- じゃぁ、今日は泡盛談義ですが、ノンアルコールですかね?

大石 いや、ぜんぜん大丈夫(笑)。けど、泡盛苦手だからバーボンで(笑)。

大石泰輔さん
1954年、香川県生まれ。京都府立大学大学院農学研究科林学専攻修了。
某県庁に勤めながら、自然観察会運動、市民参加の森づくり運動で活躍。最近は自称どんぐり研究所の主任研究員として、「人と森の絆を回復するために 森の気持ちを理解する 誰でも入門できる森林道場」を展開中。顔出しNGのはずだったが、お酒のせいか、早々にOKが出た。

-- 世の中では森が荒れている!とか、何とかせないかんってことで市民活動なんかも盛んなわけですが、実際のところはどうなんですか?

大石 いきなり難しいことから聞きにくるねぇ。アルコール足りんよ、まだ(笑)。 二つの側面があるよね。森林における生態系としての側面と、人間が利用する森林と言う側面と。まず、森林生態系としての今の日本の森の状況が荒廃しているかというと、まったく逆。1960年頃までは、肥料にしても薪にしても炭にしても山に依存していたわけ。人口密集地の背後の山と言うのは日本中の山が禿山だったんやね。戦前、特に明治時代はものすごい過剰利用で、台風が来たら大洪水になる始末。そこでこれはいかんってことで治山事業がはじまった。戦後、昭和天皇が全国を周って植樹祭したんや。でも、当時はとりあえず治山工事で禿山を脱した山でさえ、1960年まではもうほとんど高木の生えていない疎林ばかりだった。


禿山写真

「岡山県が作成した保安林制度100周年記念誌「岡山県治山事業のあゆみ」に掲載されている池田村(現総社市)宍粟地区の明治32年のはげ山の写真」(大石さん提供)

禿山写真

「昭和31年(1956)ころの高松市郊外の里山が疎林だった様子」(大石さん提供)

-- 江戸時代末期からの急激な人口増加を支えるために、肥料や燃料として使いまくったわけですね。

大石 ほとんど収奪だね。都市も山村も収奪者になってしまった。

-- 山村は江戸時代まで山から収奪しないで循環型でいけてたんじゃないんですか?

大石 山村も人口が増えたのと、何より都市を支えるために、山村の生産力を大幅にあげなくてはいけなくなった。家畜のえさ、畑の肥料。今ならアメリカから輸入してるものは当時は全部山から取った。炭も薪も都市に商品として大量に供給する必要があった。

-- 1960年前後のエネルギー革命までそれが続いたんですね。

大石 そう。なので、今の子どものおじいちゃん世代、森田さんのお父さん世代の若い頃は日本中、禿山だらけ。「昔の森は豊かだった」というのは都市の背後地においては違うんだよね。

-- その後、森はどうなったんですか?収奪時代が終わって。

大石 同じような収奪は、地中海のギリシャなんかでもあったんだけど、あっちは乾燥した気候で、緑の回復なんかしてないよね。さらに進めば砂漠化。文明がほろんだ原因でもあるぐらいで。ところが、日本のようなアジアモンスーン地帯は温暖で雨が多いので、実はけっこうすぐに緑が回復し始めた。森林生態系としては、人間が収奪しなくなったんで、ある意味、ほっとした。森というのは土の上に、腐植(ふしょく:土壌有機物)がたまって、栄養をためる森林土壌が必要。森林土壌があってはじめて、そこの気候にあった植生が成立する仕組み。

-- 森林土壌が少ないとどうなるんですか?

大石 草しか生えないか、松ぐらいしか生えない痩せた山になるね。森田さんの子どもの頃まではまだ松林だったやろ、香川は。

-- そうです、そうです。僕の原風景は、松林の白っぽい土が露出した森ですね。松葉以外落ち葉もないような。

大石 花崗土むき出しの運動場みたいなね。松林がその後なくなった原因は松自体の松枯れもあったけど、コナラ、クヌギ、アベマキといった落葉広葉樹が一気に広がったことが大きい。どっち向いてもドングリの山!これは、人が収奪やめて、森林土壌がだんだんできてきたのがドングリ山がひろがった原因の背景。

-- クヌギの樹とかはあんまりなかったんで、カブトムシ捕まえるのも情報戦だったこと思い出しますよ。

大石 まだ森田さんぐらいの田舎に住んでたらなんだけど、まちなかから歩いていける山は全部禿山か松林だったから、僕なんかカブトムシや捕まえた記憶ないもんなぁ。それが今ではどこ向いてもクヌギ、アベマキ。カブトムシの量もみんな知らんだけで増えてるもんね。

-- なのにスーパーで買う(笑)。

大石 今はもう、いろんな昆虫がたくさんいて、下層植生(森の低い樹や草)も豊富で、動物もけっこういて、多様性にあふれた森に変わったね。昔はマツボックリと松葉しか落ちてなかったところに(笑)。

森

-- じゃぁ、森が荒廃してるっていうのは森林生態系としては違うってことですかね?

大石 そうやねぇ、100年以上禿山時代が続いてきたことから考えたら、今は森にとってわが世の春、天国かもねぇ。人間が勝手に区分けした考え方だと、「途中相」という状態で、森の上層や下層がごっちゃごちゃしてる。ブナ林のような上層、中層、下層がはっきり分かれた天然林の「極相林」と比べると、このあたりの里山は雑然として見えるかも。けど、少なくとも禿山と比べたら森は豊かになったと言えるんじゃないかな。

(つづく)

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