カルチャー [映画評]
不都合な真実(An Inconvenient Truth)
文:リュウ・タカハシ
2009年6月26日
僕はマイナー指向というか、裏道嗜好というか、アマノジャク思考というか、へそ曲がり志向というか、とにかく立派、正統、メジャー、流行、人気なんてモノがどうも苦手なタチで、自分でも難儀なやっちゃと思うことしばしば。その証拠に僕が好きなモノというのは、まず流行らない(笑)
だから映画レビューを書くときも、超話題作なんてのは本来は避けたいところ。
が、しかし、さすがにこの作品、『不都合な真実』を避けて通るわけにはいかん。同じくこの作品に言及した家内のコンテンツ(ニュージーランド歯をくいしばってのんき暮らし「ゴアさん、またしてもごめんなさい」)も、相当な反響だ。気合い入れて書かねば。
とはいえそこはアマノジャク、今回は、ガイディング研究所専任研究員の立場から、この作品をとりあげてみようと思う。
ここでアル・ゴア氏が語っている説に関しては、いまだに科学者の間でも賛否両論があるようだが、正直、内容の正否は大した問題ではないと感じる。なんせ彼の結論「木を植えましょう」「環境のために正しい事をすれば、経済も回復します」はまったくもって正論で、地球温暖化二酸化炭素原因説が正しかろうが間違っていようが、この提言に異論をはさむ余地はないから。枝葉末節にとらわれて大きな論点を見逃してたら、アホである。
それだけでは足りない、別の解決策も必要だとおっしゃる反対派は、さらに加えて別の提言をすればよろしい。この映画を否定する必要はない。
というわけで内容については、提言が正しい以上、論法の正否は問題にしないということで、オシマイ。
ここからが本題だが、ガイディング研究員の立場で注目すべきは、むしろゴア氏のプレゼンテーション能力だ。本当に本当に、スンゴイ。
ガイドは接客業なので、ツアー中にかなりたくさんのことを説明する。自然解説、技術講習、ツアー行程日程、安全対策、無駄話、etc、etc。無駄話なら聞き流されてしまってもかまわないが、技術講習や安全対策はしっかり理解していただかないと大変だ。
だから、ここぞと言うときに、どうやってお客様の注意をひきつけるかが大問題で、その手の才能に恵まれない僕なんかは、10年間毎日が勉強だったし、結局納得のいくスタイルが完成する前に引退する羽目になってしまった。
この映画を初めて観たとき、彼の論じることには予備知識があったので、内容からはさほどの衝撃を受けたわけではなかった。
しかしゴア氏の圧倒的な説得力、プレゼンテーションの巧さには、頭をぶん殴られたようなショックを受けた。しゃべるスピードの緩急や間の置き方、ジョークをはさむタイミング、映像資料の巧みな使い方、目線や表情や手の使い方、どれをみてもスゴイ。一流のセールスマンや営業マンの仕事ぶりも何度も目にしてきたが、ゴア氏のプレゼンテーションはもう一桁違うと感じた。こういうガイディングができたら、死んでも良いぞ、ってのは大げさだが、いや、ホントにゴア氏は超一級のガイドさんだ、と心底驚嘆した。
勝手な思い込みかもしれないが、僕が受けた印象では、ゴア氏は最初っからプレゼンテーションの達人だったわけではないように思う。むしろ生真面目な学者タイプで、どちらかというと机の上の資料に視線を落としたまま、トツトツと喋るようなタイプだったのではないだろうか?
そのように想像しながら、いつも彼の堂々たる講演ぶりを、舌を巻きながら眺めている研究員リュウである。
ま、こんな見方は相当のへそ曲がりかもしれないが、逆にいえばそういう見方を許容するほど面白い作品だということ。まともに観るも良し、否定派の立場でツッコミを入れつつ観るも良し、僕のように変なところで感心するも良し、とにかく一度は観ておく値打ちのある作品だろうし、一度観たという方も、もう一回観直しておくのがよろしいかと。
さて、木を植えるとするか。
最新記事
- The Mysteries of Harris Burdick (2011年11月28日)
- Physics of the Future (2011年7月 8日)
- 瀬戸内国際芸術祭でトークライブ(2010年10月21日)
- "Born to Run 走るために生まれた" (クリストファー・マクドゥーガル)(2010年5月15日)
- 『レイラインハンター --日本の地霊を探訪する--』(2010年4月16日)
この記事のトラックバックURL
https://e4.gofield.com/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/232