カルチャー [書評]
bed in a tree
文:リュウ・タカハシ
2010年1月28日
旅が大好きだ。
ニュージーランド(以下NZ)に移民したら、なぜか憑きものが落ちたように悪い虫がおさまってしまったが、日本にいるときは「嫌いなところは『ここ』、行きたいところは『ここ以外ならとりあえずどこでも』」などとほざく重度のノマド症候群患者だった。
建物も好きだ。
若い頃からセルフビルドにあこがれ、迷走に次ぐ迷走の末、ようやく三年ほど前に妻がデザインした自宅をトンカチノコギリ振り回してなんとか形にした(ものの、永久に完成しそうにないのは、やはりセルフビルドの宿命......)。巨大なクラフトワーク、本当に楽しかった。
だから、旅館、ホテルの類はもちろん大好きだ。
とはいっても、大型のホテルや旅館にはあまりひかれない。気になるのはやっぱり家族経営程度の小さな宿で、オーナーの遊び心がのびのびと全開しているような建物。旅の計画中にそんな宿を見つけたら、もうその旅はもらったも同然である(とは限らないのが、旅の難しくも面白いとこ)。
そんな僕にとって、この本『Bed in a Tree: And Other Amazing Hotels from Around the World』は「うわぁ、やられたぁ! 卑怯なり!!」ってなシロモノ。
いや、きっと僕だけじゃないはず。旅が嫌いな人はめったにいないし、この本に登場するような超個性的な宿の数々を見て頬がゆるまない人も、なかなかいないはずだ。なんせ我が家のガキどもでさえ、「あ、ワンちゃんの家! これに泊まれるの? 泊まりたい! 行こうっ! あ、お魚の家! あ、氷の家!」と大騒ぎ。タイトルだけ見て「ツリーハウスの本かな?」と勘違いして買ってしまった人だって、きっと後悔しないで「ヒョウタンから駒」と納得できることうけあい(ホントか?)。
ようするに世界中の超個性的な宿を紹介したホテル・ガイドブックなのだが、表紙に写ってる四軒だけでも、この本の恐ろしさがうかがい知れようというもの。
左上の写真が本のタイトルになっている「Bed in a Tree」、樹の上のベッドなる物件。樹齢500年の樹のしつらえられた地上数mのウッドデッキの上に、屋根もないままにベッドがポンと置かれている。ただ事ではない。
右上の「Glass-Floor Villa」は、ごらんの通り窓の外をお魚が泳いでいる物件。恐ろしすぎる。
右下の「In a Seashell」は巻き貝をモチーフにした美しい物件。海をテーマにした宿なんて腐るほどあるが、建物自体が巻き貝などという凝った物件は、そんじょそこらにあるはずもない。とんでもない。
左下は「Glass Igloos」は読んで字のごとく、イヌイットの氷の家をガラスで再現したファンタジー感あふれる物件。素敵すぎる。
こんな調子で、いや、実はこんなのは序の口というようなすごい物件が、この他に23軒も全ページカラーで紹介されている。素晴らしい。ページをめくっていると、文字通り時を忘れる。旅先じゃあるまいし、のんびりしている場合じゃないというのに......。
ちなみに僕がため息混じりで毎日のように眺めているのは、冒頭に登場している「Ball in a Tree」。ツリーハウスの一種なんだけど、文字通り完璧な球体を林の中にいくつもぶらさげた宿。球体が金属とか樹脂とかだと興ざめだが、ここはなんと木製。スターウォーズ・エピソード6に登場するイォークの森みたい。カナダはバンクーバー島だそうだ。良く造ったなぁ、泊まりたいなぁ。
もう一つよだれを垂らしつつ眺める物件は、三つ目に紹介してある「Earthships」。この物件だけ章のネーミングに工夫がない。というのも、このアースシップっていうのは工法の名前そのものだからだ。僕らも自宅計画中に、ゴミを再利用して建てるこのエコ工法に出会い、友人の大工(オランダ人)に「オレ、アメリカでアースシップ建ててたぜ。建ててやろうか?」とまでいわれたこともあるのだが、ゴミがここまで壮麗な物件に化けるとはつゆ知らず、あまりエコでない家を建ててしまった。後の祭りでドンジャラホイ。よし、次に家を建てるときは、絶対にアースシップだ。
例によって例のごとく、今のところ日本語版が出ていない英語書籍だが、上記の通り全ページ美麗なカラー写真満載の本なので(さすがはドーリング・キンダースレイ社)、英語なんて読めなくったってなんの問題もなく写真集として楽しめる。
今ならどうやらアマゾンで値引き販売してるようで、2,400円弱で買えてしまうというんだから、こりゃ超お得だ。しかも、この手の本には珍しいことに2011年4月末日まで有効の宿泊料10%割引券がついている(ただしすべてのホテルではない)ので、もし一軒でも実際に泊まることになれば、この本の購入価格なんていとも簡単に元が取れてしまう! いうことなし。
ただし日本の宿は残念ながら一つも紹介されていない(NZは、北島と南島からそれぞれ一軒ずつ登場しているが)。この本が売れて、日本の宿がフィーチャーされた第二弾がでるといいなぁ。
ちなみに『The Survivors Club』を「『リュウの選ぶ書籍大賞 2009』のノンフィクション部門大賞最有力候補」とご紹介したが、2009年も残すところあと数日というときにあらわれたこの本が結局大賞をかっさらってしまった。この本は、スゴイ。これらのホテルを造った人たちも、エライ。
よし、金貯めて片っ端から泊まりに行くぞ!
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