カルチャー [書評]
脱常識の世界史 最終回
文:リュウ・タカハシ
2009年11月19日
江戸時代に興味を持つキッカケは杉浦日向子作品だったか池波正太郎が先だったか、今でははっきり覚えていないが、どちらにしろ二十代半ば頃だったはずだ。
そして「江戸モノ」にアンテナを張っているうちに『大江戸リサイクル事情』石川英輔 (講談社文庫)に出会った。それまでは僕の中で「江戸」ってのは単なる趣味的な位置づけだったが、江戸のサステイナブル社会という側面を解説したこの本は、僕のナチュラリストな部分を大いに刺激してくれた。年々消費エネルギーとゴミが増え続ける現代社会と比べて、江戸がずいぶんと先進的にうつった。
今の世で江戸のシステムをそのまま再現するのはナンセンスだが、少しでもサステイナビリティをあげるには、まず化石燃料にたよる率を下げてもっとソーラーエネルギーを活用せねば、ってな具合に、江戸趣味と環境への関心が合体したわけだ。
ところが実際に自分で家を建ててみたりしているうちに、だんだんと疑問がわいてきた。はたしてソーラーエネルギー、特に太陽発電ってのは、割にあうシロモノなんかいな?と。
太陽光パネル自体の値段が高いの安いのっていうだけの単純な話ではない。パネルを作るときに使うエネルギー量とか、パネルの耐用年数なども全部計算に入れて、果たして発電量はちゃんと「元がとれる」んだろうか?
というのも、妻Ryokoが連載第一回目にかいている通り、太陽光をアクティブに利用(太陽発電、太陽温水システムなど)する家を造るのはえらく高くつくので、貧乏人の我々は結局化石燃料に頼る家しか建てられなかったわけ。太陽光利用が本当に効率がいいのなら、こんなことにはならないはずでは??? これって、何かおかしいのではないのか???
太陽光パネルを作ってる会社は、パネルを生産するときのエネルギーも含めて全部太陽発電でまかなって、ちゃんと利益を出していけてるのだろうか?
もし太陽光発電の効率が悪いとすると、極端な話「太陽光利用は環境に悪い」って可能性もあるのでは???
そこでちょっとググッてみたんだけど、僕の検索技術がヘボなせいか、これだという回答にはぶつからなかった。
今後がんばって少しずつ太陽光をもっとアクティブに利用できる家に改造していきたいっつー思いは、もちろん今でもある。でもこの辺のもやもや感も、何とか解消したいなぁと思っていた今日この頃なのであった。
そしたらアナタ、あった、あった、ありましたよ、明快な回答!
つい先日終了したばかりの『脱常識の世界史 - 人口とエネルギー源が起こす地殻変動』という連載がやたら面白くて、毎回目からウロコをぼろぼろ落としつつ楽しく読んでたのだが、なんとその最終回が、まさにこの「江戸時代はエコ」という話をまくらに「太陽光発電の『不都合な真実』」を、僕のような文系アウトドアズマンにもきちんと分かりやすく解説してくれているではないかぁ!
ちなみにこの日経ビジネスオンラインというサイトは、会員登録(無料)しておかないと2ページ目以降が読めないので少々敷居が高い。特に僕なんて、経済と聞くとクシャミと涙が、政治と聞くとジンマシンが出る体質なので、どうも登録するのがおっくうで敬遠していた。
でも登録(すぐにすむ)してみると、確かに読み応えのあるコンテンツがけっこう揃っていて、なかなか面白い。特にこの『脱常識の世界史 - 人口とエネルギー源が起こす地殻変動』は、わざわざ登録して読む値打ちあり(なんか日経の回し者みたいになってきたな......)。
閑話休題。
人口とエネルギーの関係から歴史を見直すというのは、少なくとも僕にとっては今まで見たことも聞いたことのない斬新な視点で、この論点で魔女狩りや少子化や人口爆発、狩猟から農耕への移行、そしてなぜ石油がエネルギーのチャンピオンなのか、などなどの多彩な話題が、次々に見事に解きほぐされていくさまは、まるで手品を見ているような驚きと喜びがあった。
問題の最終回だが、これは僕にとっては相当に効くワンツーパンチだった。
まず人口・エネルギーで斬った江戸は、石川、杉浦、池波諸氏の書物から得られるイメージとは相当に違った側面を見せてくれる。
そして本題の太陽光発電は、僕の疑問にきっちりした回答を提供してくれる。1950年代の原子力推進政策と今の太陽光政策の類似性の指摘は、確かにいわれてみればその通りなのだが、そこまではまったく気がついていなかった愚鈍な僕には、いささかショックでもあった。
結論は「地球環境問題は恐ろしく厄介な問題で、安易な解決策などあり得ないという予感」にとどまり、具体的な代替案が提出されていないので、人によっては「なんだ、尻切れトンボかよ!」と突っ込みたくなるかもしれない。
だがこの連載に関しては、あえて安易な代替案を出すかわりに、「脱常識」の視点を提供することに思いっきり力が注いであり、そこが新しくもあり、大切なところでもあるので、基本的には代替案なき批判は相手にしないことにしている僕も、この連載に関しては例外的に「これで良い」と感じた。
代替案に頭をひねるのは、僕ら一人一人の役割だろう。少なくとも我が家では、この連載が今後の家造りや暮らしぶりの大切な指針になりそうだ。
大幅加筆の上で書籍化されるとのことなので、今から楽しみにしている。
参考書籍
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