カルチャー [映画評]
The Truth About Killer Dinosaurs
文:リュウ・タカハシ
2009年7月31日
今年に入って、ノンフィクションのDVDをよく観ている。近所のレンタルDVD屋は映画ばかりでダメなのだが、図書館がどんどんノンフィクションを入荷しているので、最近はBBC(英国国営放送)制作の涙がチョチョ切れそうになるほど面白い科学ドキュメンタリーなどに、プチはまり気味。
しかしBBCって、なんであんなにスゴイんだろ。ニュージーランド(NZ)国営放送TVNZや日本国営放送NHKもがんばってると思うのだが、やっぱり博物学のお膝元だからだろうか、自然科学ドキュメンタリー系では昔からずっとBBCが頭一つ先行しているような気がする。
ま、それはともかく、つい先日、『リュウの選ぶDVD大賞 2009』のノンフィクション部門大賞最右翼の作品にあたってしまった。2009っつっても、今年リリースされた新作という意味じゃなくて、あくまでも僕が今年観たっていうだけの意味だけど、ま、とにかくこれはスゴイ、面白い、素晴らしい、e4でさっそく紹介しなくてはっ!と意気込んでしまった。
ところがっ! なんてこったいっ!
調べてみると、なんと和訳されていないっ! 日本語版が発売されていないっ! なんとゆーことだっ!
同じくBBC制作の『ウォーキング with ダイナソー』や『ウォーキング with ビースト』は、ちゃんと日本語版があるのに、なぜもっともっと面白いこちらの作品はないんだっ!
でもこれを紹介しないわけにはいかんだろう、やっぱり。えぇい書いちゃえ!
タイトルは『The Truth About Killer Dinosaurs』。
さっきのウォーキング・シリーズと何が違うかって? あっちは全世界で相当に話題になったらしいのでご覧になった方も少なくないと思うが、動物ドキュメンタリー映画によくある手法で作ってあるとこがミソ。最近だと『北極のナヌー』(変な邦題! 原題は『Arctic Tale』なのに......)なんかもそうだったが、主人公を擬人化したドラマ仕立ての動物映画は、感情移入がしやすいからだろうか、昔からポピュラー。ウォーキング・シリーズもその手法で作ってあるのだが、ドラマの作り方はやはりさすがのBBC品質だし、CGのクオリティもなかなかみごとなモノで、こりゃたしかにヒットするわいなってな出来映え。
それに対して『The Truth About Killer Dinosaurs』の方は、謎解き仕立てになってるのが白眉。迫る謎とはずばり、「本当にティラノサウルスとトリケラトプスは闘ったのか?」。
この対決は、映画が発明されてすぐの頃にストップモーションアニメーションで映像化されているほど、大昔からポピュラーなモチーフ。僕らが子供の頃の恐竜本にも、必ずこの対決は出ていた。想像の対決の定番ということでは、猪木対馬場と、Tレックス対トリケラトプスが東西の横綱といってもさしつかえないだろう(独断)。
しかし本当に闘ったのだろうか、それとも人間の勝手な想像ではないのか、というのがこの番組のテーマ。Bill Oddieというやったらテンションの高い面白い案内役のオッサンが、ウォーキング・シリーズばりのCGはもちろん、化石の細密な検証、原寸大のロボットをわざわざ作っての再現実験(おいおい、ここまでやるか!?ってな出来映え)、現生動物を観察して類推考察など、考え得る方法や技術をフル活用して謎に迫る。まず最初の課題「ティラノサウルスは本当にハンターだったのか? それとも屍肉あさりだったのではないか?」からはじまり、順々に階段を上るように一つ一つ謎を解き明かした末に、現時点の科学で可能な限り再現した夢の対決をリアルに描いてみせてくれる!!!
編集も凝っていて、非常にスタイリッシュな映像をテンポよく展開してくれるので、飽きるヒマなんかなく、椅子の前の方にお尻引っかけて身を乗り出したまんまの姿勢で、あっという間に一時間。
なんせ我が長女は大変な恐がりの7歳児なのだが、それでも食い入るように1時間観てたし、3歳児の次女も案内役のユーモラスさに引き込まれて、これまたちゃんと最後まで観てた。落ち着きのなさでは天下一品のウチの3歳児と7歳児が、そろって1時間ちゃんと座っているノンフィクションなんて前代未聞。
第二部には『ジュラシック・パーク』で一躍脚光を浴びたベロキラプトルがアッと驚く姿で登場し、さらにその闘い方も映画とはまったく違っていたことが次第に解き明かされていく。こちらも第一部と同様、あらゆる手法を駆使してみせてくれる。例のナイフのようなかぎ爪のロボット実験は、必見!
もし僕が自分でこのDVD売るんだったら、「面白くなかったら、お代はお返しいたします!」って宣伝したいくらいの超おすすめ作品。
英語版だが、DVDだから字幕を出すこともできるし、ドラマと違ってこういう科学的アプローチの番組ならば、内容は映像からほとんど想像できてしまうはずなので、案ずるより産むが易し、案外誰でも楽しめると思う。「英語、勉強しなきゃなぁ」なんて思っている人には、こういう超面白い作品でとっかかりを作るのがいいと思うが、いかがだろう?
しかし、すっげぇなぁ、こういう作品を作る人たち。もう一回観て、シナリオの書き方の勉強でもしようかな。
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