カルチャー [映画評]

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幸せの1ページ(Nim's Island)

文:リュウ・タカハシ
2009年5月28日

movie_review_nims_island.jpg 『マトリックス』の悪影響か、はたまた別の理由だかよく知らないが、今世紀初頭の数年間は、アクション、SF、ファンタジー系などの娯楽映画が不作だったような気がする。ファンタジー関連は特に大賑わいで、指輪なんちゃらとかハリーなんたらとか成る庭がどうたらとか、CGの発達でついに映画化実現!ってな大作が目白押しだったが、個人的にはどれも二度とは観ようとは思わない。
 ところがここ数年、もう一回観たいと思える作品がだんだんもどってきたようだ。特にファミリー向けファンタジーに佳作が増えてきたのは、小さな子供を持つ親にとっては非常にうれしい。
 『幸せの1ページ(Nim's Island)』も、そんな脱マトリックス・ショック後のファンタジーの一つ。

 ところで、なんでこんな変テコな邦題つけたんだろう? 原題は小説も映画も『Nim's Island』で、小説の邦題は『秘密の島のニム』とストレートな和訳。映画も同じ邦題でいいんじゃないのかと思うが、この手の話は枚挙にいとまがないので、深く突っこむのはカンベンしてやろう。

 閑話休題。
 この映画の勝因は、下手に大人を意識しないで、子供向けに集中したところにあると思う。最近の子供向け映画って、「連れてきてる大人も楽しませよう」ってなフラチなオモワクがプンプン臭うものが多く、こういう二兎追う作品ってのは往々にして中途半端で、かえって楽しめないことが多い。むしろ大人を無視してくれた方が、かえって大人も楽しめる作品になることが多いと思うんだけど。NHK教育の子供番組だって、ついつい一所懸命観てしまうお母さんって多いでしょ?(笑) え、僕? いえいえ、僕は観ませんよ、そんなぁ、ぜんまいざむらいなんて、聞いたこともありませんってば。おいらのぜんまいキコキコしませんってば。

 あ、また脱線した。
 それはともかく、この映画の舞台は楽園を絵に描いたらこうなったってな感じの南の島。クック諸島近辺ということになってるようなので、NZからそう遠くない。この島に主人公Nim(僕は日本語字幕版を観てないので、念のため固有名詞は英語で記載する)と父親Jackが二人だけで住んでいる。
 無人島モノとくれば掘っ立て小屋だったのは昔の話、この映画ではソーラー発電&インターネット完備のなんとも素敵な家が登場する。シンプルでウッディなツリーハウスっぽい風情だし、子供向け映画らしく(我が家の悪ガキたちよりずっと)かしこい動物二匹+一頭+一羽がNimの友達として登場するし、ナチュラリスト垂涎のこの家での暮らしぶりにスポットライトをあてただけでも、映画の1本ができちゃいそうなくらい。でも暮らしの様子は、あまり詳しくでてこない。チラリズムの妙味。

 大人向けには作っていないと書いたが、それでも巧いなぁと思ったのは、父親を海洋生物学者に設定しているところ。これひとつで「なんで孤島暮らし?」、「しかもインターネット?」という疑問を一気に解消していて、物語世界にすっと入っていけるし、メインの筋書きにも必然性がでてくる。やるなぁ。

 ストーリーは子供向けのご都合主義で、テンポよく進む。それでもチャチな印象を受けないのは、ウォルト・ディズニー存命の頃の往年のディズニー作品と同様。
 CGも隠し味に徹していて好感度が高い。コケオドシCGにはもう誰も驚かないし、子供は昔の古い特撮作品だって楽しむものなんだから、これでいいのである。

 大人にとっての見どころは、Jodie Fosterの演技だろうか。売れっ子作家Alexandra Roverのイカレポンチっぷりは、子供と一緒に笑えるし、彼女の作品のヒーローAlex Roverとの絡み=自己の内部での葛藤は、大人にとってはなかなかリアル。
 また父Jackのたくましい姿にも、子供を持つアウトドアズマンである僕はちょっとだけ涙したのであった。ちなみにヒーローAlexと父Jackは Gerard Butlerの一人二役だが、なかなか上手に演じ分けていて、知らなければ二役とは気づかないかもしれない。これも隠れた見どころかも。

 感動の大作でも、手に汗握る作品でもないので、子供のいない若い人にはちょっと退屈かもしれない。でも家族向けには安心してお薦めできる良作だ。
 ただ個人的に、一つだけ残念だったなというか、こうだったらもっと良かったのになという、ないものネダリがある。
 英語版で観ていてちょっと違和感をおぼえたのが「全員アメリカ弁」ってとこ。作家Alexandra RoverとヒーローAlex Roverの二人がアメリカ弁なのはシックリくるだけに、主人公親娘はむしろイギリス弁でなきゃダメだろうと思ったのは、僕だけだろうか?

 最後にトリビア&疑問。
 アシカのSilkieが観光客の乗ったボートを攻撃するシーンがあるが、あれは本当に本当にとんでもなく強烈なシロモノなのである。経験者のこの僕がいうんだから、間違いない。
 つまりあの攻撃にたえて上陸してきた彼らはタダモノではないはずなのに、なぜその後の第二弾攻撃であんなにうろたえまくったのだろうか? アシカの第一弾攻撃に比べれば、文字通り「屁」でもないと思うのだが。

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