特集 [ツルをよぶお米]
アースワーム(ミミズ)が理想的な土を作る 阿波・循環型有機農法の試み
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土地が持つ本来の力、「地力」を有機によって復活させることで、健康で安全な作物を豊富に実らせることに成功した阿波のケースを『ツルをよぶお米』として紹介した。
ここでは、さらに他の業種を巻き込み、地域の産業が一体となった『阿波・循環型有機農法』ともいえるシステムが確立されている。
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地場産業であるシイタケを栽培した後で出る廃菌床は、そのまま放置しておくと発酵して悪臭を放つ厄介者だった。これをやはり地場産業であるタケノコを採るための竹林から出る枯竹を粉砕した繊維と混ぜ、さらに鶏糞とブレンドして肥料とした。また、オカラをビール酵母で発酵させた液肥なども合わせることで、非常に栄養価の高い有機肥料が生まれ、これを地元の有機農法に利用する。
阿波生協「自然派」が主体となって、土地に含まれるミネラルやビタミン、アミノ酸などの成分を測る土壌検査を元に、作物に適したレシピに沿って成分調整を行うことで、作物の品質と収量の向上を図る。その主役となるのが、地元の産業から排出される有機廃棄物を再加工した上記のような肥料だった。
有機農法というと、熟練した農家でも取り組むのが難しい、手の掛かる、特別なノウハウと経験を必要とする特殊な農法のように思われてきた。だが、阿波生協の方法では、「地力」を客観的に分析し、作物に合わせた調整が誰でもできるため、新規就農者でもいきなり実践できる。この方式の勉強会なども頻繁に開かれ、さらには農業指導やコミュニティの運営まで積極的に行われ、今では新規就農者だけではなく、多くの農家が参加するようになった。
今回紹介するのは、有機の肥料だけでなく、「土」そのものを造り出すという試みで、前回紹介したシイタケ廃菌床をミミズに食べさせ、土に変換する完全有機システムとなる。
ミミズ糞土は、昔から有機成分や作物に有用な微生物を多く含んだ土として、土壌改良剤や肥料として使われてきた。英語ではミミズのことを「アースワーム」というが、まさに、大地を健康にしてくれる虫で、欧米では家庭菜園などでも積極的に活用されている。
そのミミズ糞土に早くから着目し、大量生産に取り組んできたのが「豊徳」という企業だ。元々、大手製紙メーカーの関連企業で、35年前に紙の製造工程で出るペーパースラッジを有効利用しようという試みからはじまった。
廃棄物としての処理が厄介なペーパースラッジをミミズ養殖の飼料とすると、生育も良く、糞土の生産性も高かった。生体のミミズは釣り餌として、糞土はゴルフ場の土壌改良剤として利用された。
その後、製紙業界ではペーパースラッジを極力出さない製法に切り替えられ、豊徳では、ミミズ養殖用の飼料としていろいろと試すうちに、地元のシイタケ栽培で出る廃菌床が非常にいい飼料となることを発見する。そして、シイタケ廃菌床とミミズから良質のミミズ糞土が生産されるようになる。
豊徳では、日本のシマミミズとカリフォルニア産の赤ミミズのハイブリッド種を養殖している。この種類は気候の変動に対してタフで、3ヶ月ほどで世代交代していくので、常に健康な糞土が生産されていく。
実際に、広大な敷地内で生産されている現場を見ると、山積みされたシイタケ廃菌床と牛糞をブレンドした山が並び、さらに低層の布屋根を張った養殖地が並んでいるだけで、他に特別な施設は、糞土をパッケージするプラントくらいしかない。
ある程度敷地内で熟成された原料は、養殖地にまかれ、それをミミズが良質の土に変えていく。有機の廃棄物が、まるで錬金術のように土に変化する様子は、ミミズがまさに「アースワーム」であることを実感させる。
収穫したミミズ糞土は天日で乾燥され、袋詰めされる。天日乾燥された糞土は、大粒のサラサラした土で匂いはまったくない。これは「団粒構造」と呼ばれ、土の細かい粒子がミミズの腸内で酵素や粘質物によって凝集されるもので、粒の中に空気層を多く持って、そこに酵素や微生物を生育させると同時に高い保水力も備え、干ばつなどにも強い土となる。また、硫化水素などの吸着作用もあるため、ミミズ糞土を含んだ土は匂いが少ないのも特徴だ。
豊徳では、実際にミミズ糞土の効果を確かめるために試験農場も運営しているが、そこで採れたピーマンは、苦みがなくほんのりとした甘さがある。また植物の発育も早く、しっかりと根付いているので悪天候にも強い。さらに、花は発色が鮮やかになるといった成果も出ている。
このミミズ糞土を使用した農家はもちろん、家庭菜園に使ったユーザーも、ほとんどがリピーターとして愛用してくれるという。
前回紹介した阿波の有機サイクルに、このミミズ糞土が加わることで、さらに地域で完結する有機農業の循環モデルが完成に近づいているといえる。
今回は、豊徳のミミズ養殖場を訪問した後に、同じ阿波の石井養鶏農業組合を訪ねた。普通、養鶏場といえば独特の匂いがあって、周囲に人家のない山間などに設置されることが多いが、ここは周囲に住宅が点在する場所にある。そして、鶏舎のすぐそばに寄っても、鼻を突く匂いはない。
これはやはり有機から生まれた消臭菌を散布しているためで、この菌が他の雑菌やバクテリアを死滅させるので、養鶏では当たり前と言っていい抗生物質をほとんど使用せずに鶏を飼育できるのだという。
この養鶏場も阿波の有機農業サイクルの一部となり、ここで出る鶏糞はシイタケ廃菌床や竹繊維と混ぜ合わされ、トマト畑やツルをよぶお米の田んぼへと還っていく。
最近、環境問題への関心の高まりから、サステイナブル=循環型社会という言葉もよく耳にするようになったが、「循環型」といいながら、その中身は単に従来よりほんの少し省エネといった程度で、お題目として唱えているだけのモノが多い。他の産業などと結びついてそれぞれが補完し合う存在として廃棄物を極力減らし、エネルギー効率も高め、なにより消費者の健康的な生活に寄与するといった点で、はっきりとした成果を出している阿波のケースは、これから一つのモデルとして、全国での同じような試みに波及していけば面白いだろう。
豊徳の敷地内に設けられたミミズの養殖ファーム
ミミズの飼料となる廃菌床はいったん熟成させてから使用される
有機廃棄物を栄養豊富な土に変えるミミズは、まさに「アースワーム」
パイロットファームではミミズ糞土の効果の実証実験が進められている
■阿波循環型有機農法概念図■
●地域で出される有機の廃棄物を余所で処理することなく、地域の循環サイクルに載せて、再び有機農業へと生かしていく。
●今まで廃棄物として処理コストがかかっていたものが『商品』に生まれ変わり、利益を生み出す。
●地域の中で循環するため、輸送コストがミニマムで済む。
●他業種や異なる産品を生産する農家の間にコミュニティができあがり、情報交換や勉強会が活発になる。
●素材から土、肥料、栽培方法が全て明確であるので、消費者は安全な食品を安心して食べることができる。
●地域型循環有機農業のモデルとして、システムを他地域でも応用できる。
土地が持つ本来の力、「地力」を有機によって復活させることで、健康で安全な作物を豊富に実らせることに成功した阿波のケースを『ツルをよぶお米』として紹介した。
ここでは、さらに他の業種を巻き込み、地域の産業が一体となった『阿波・循環型有機農法』ともいえるシステムが確立されている。
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地場産業であるシイタケを栽培した後で出る廃菌床は、そのまま放置しておくと発酵して悪臭を放つ厄介者だった。これをやはり地場産業であるタケノコを採るための竹林から出る枯竹を粉砕した繊維と混ぜ、さらに鶏糞とブレンドして肥料とした。また、オカラをビール酵母で発酵させた液肥なども合わせることで、非常に栄養価の高い有機肥料が生まれ、これを地元の有機農法に利用する。
阿波生協「自然派」が主体となって、土地に含まれるミネラルやビタミン、アミノ酸などの成分を測る土壌検査を元に、作物に適したレシピに沿って成分調整を行うことで、作物の品質と収量の向上を図る。その主役となるのが、地元の産業から排出される有機廃棄物を再加工した上記のような肥料だった。
有機農法というと、熟練した農家でも取り組むのが難しい、手の掛かる、特別なノウハウと経験を必要とする特殊な農法のように思われてきた。だが、阿波生協の方法では、「地力」を客観的に分析し、作物に合わせた調整が誰でもできるため、新規就農者でもいきなり実践できる。この方式の勉強会なども頻繁に開かれ、さらには農業指導やコミュニティの運営まで積極的に行われ、今では新規就農者だけではなく、多くの農家が参加するようになった。
今回紹介するのは、有機の肥料だけでなく、「土」そのものを造り出すという試みで、前回紹介したシイタケ廃菌床をミミズに食べさせ、土に変換する完全有機システムとなる。
ミミズ糞土は、昔から有機成分や作物に有用な微生物を多く含んだ土として、土壌改良剤や肥料として使われてきた。英語ではミミズのことを「アースワーム」というが、まさに、大地を健康にしてくれる虫で、欧米では家庭菜園などでも積極的に活用されている。
そのミミズ糞土に早くから着目し、大量生産に取り組んできたのが「豊徳」という企業だ。元々、大手製紙メーカーの関連企業で、35年前に紙の製造工程で出るペーパースラッジを有効利用しようという試みからはじまった。
廃棄物としての処理が厄介なペーパースラッジをミミズ養殖の飼料とすると、生育も良く、糞土の生産性も高かった。生体のミミズは釣り餌として、糞土はゴルフ場の土壌改良剤として利用された。
その後、製紙業界ではペーパースラッジを極力出さない製法に切り替えられ、豊徳では、ミミズ養殖用の飼料としていろいろと試すうちに、地元のシイタケ栽培で出る廃菌床が非常にいい飼料となることを発見する。そして、シイタケ廃菌床とミミズから良質のミミズ糞土が生産されるようになる。
豊徳では、日本のシマミミズとカリフォルニア産の赤ミミズのハイブリッド種を養殖している。この種類は気候の変動に対してタフで、3ヶ月ほどで世代交代していくので、常に健康な糞土が生産されていく。
実際に、広大な敷地内で生産されている現場を見ると、山積みされたシイタケ廃菌床と牛糞をブレンドした山が並び、さらに低層の布屋根を張った養殖地が並んでいるだけで、他に特別な施設は、糞土をパッケージするプラントくらいしかない。
ある程度敷地内で熟成された原料は、養殖地にまかれ、それをミミズが良質の土に変えていく。有機の廃棄物が、まるで錬金術のように土に変化する様子は、ミミズがまさに「アースワーム」であることを実感させる。
収穫したミミズ糞土は天日で乾燥され、袋詰めされる。天日乾燥された糞土は、大粒のサラサラした土で匂いはまったくない。これは「団粒構造」と呼ばれ、土の細かい粒子がミミズの腸内で酵素や粘質物によって凝集されるもので、粒の中に空気層を多く持って、そこに酵素や微生物を生育させると同時に高い保水力も備え、干ばつなどにも強い土となる。また、硫化水素などの吸着作用もあるため、ミミズ糞土を含んだ土は匂いが少ないのも特徴だ。
豊徳では、実際にミミズ糞土の効果を確かめるために試験農場も運営しているが、そこで採れたピーマンは、苦みがなくほんのりとした甘さがある。また植物の発育も早く、しっかりと根付いているので悪天候にも強い。さらに、花は発色が鮮やかになるといった成果も出ている。
このミミズ糞土を使用した農家はもちろん、家庭菜園に使ったユーザーも、ほとんどがリピーターとして愛用してくれるという。
前回紹介した阿波の有機サイクルに、このミミズ糞土が加わることで、さらに地域で完結する有機農業の循環モデルが完成に近づいているといえる。
今回は、豊徳のミミズ養殖場を訪問した後に、同じ阿波の石井養鶏農業組合を訪ねた。普通、養鶏場といえば独特の匂いがあって、周囲に人家のない山間などに設置されることが多いが、ここは周囲に住宅が点在する場所にある。そして、鶏舎のすぐそばに寄っても、鼻を突く匂いはない。
これはやはり有機から生まれた消臭菌を散布しているためで、この菌が他の雑菌やバクテリアを死滅させるので、養鶏では当たり前と言っていい抗生物質をほとんど使用せずに鶏を飼育できるのだという。
この養鶏場も阿波の有機農業サイクルの一部となり、ここで出る鶏糞はシイタケ廃菌床や竹繊維と混ぜ合わされ、トマト畑やツルをよぶお米の田んぼへと還っていく。
最近、環境問題への関心の高まりから、サステイナブル=循環型社会という言葉もよく耳にするようになったが、「循環型」といいながら、その中身は単に従来よりほんの少し省エネといった程度で、お題目として唱えているだけのモノが多い。他の産業などと結びついてそれぞれが補完し合う存在として廃棄物を極力減らし、エネルギー効率も高め、なにより消費者の健康的な生活に寄与するといった点で、はっきりとした成果を出している阿波のケースは、これから一つのモデルとして、全国での同じような試みに波及していけば面白いだろう。
豊徳の敷地内に設けられたミミズの養殖ファーム
ミミズの飼料となる廃菌床はいったん熟成させてから使用される
有機廃棄物を栄養豊富な土に変えるミミズは、まさに「アースワーム」
パイロットファームではミミズ糞土の効果の実証実験が進められている
■阿波循環型有機農法概念図■
●地域で出される有機の廃棄物を余所で処理することなく、地域の循環サイクルに載せて、再び有機農業へと生かしていく。
●今まで廃棄物として処理コストがかかっていたものが『商品』に生まれ変わり、利益を生み出す。
●地域の中で循環するため、輸送コストがミニマムで済む。
●他業種や異なる産品を生産する農家の間にコミュニティができあがり、情報交換や勉強会が活発になる。
●素材から土、肥料、栽培方法が全て明確であるので、消費者は安全な食品を安心して食べることができる。
●地域型循環有機農業のモデルとして、システムを他地域でも応用できる。
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