テーマ [森]
紅葉に包まれてツリーイング
**紅葉の中に飛び込んでいくのは気持ちいいのだけれど......**
文・写真: 内田一成
先週は都内にある某ミッションスクールのシンボルツリーにクリスマスの飾り付けを行った。
樹高20mあまりのヒマラヤスギの頂上に重さ20kgあまりの星を据付け、その根本から外枝に沿ってイルミネーションを垂らす。クレーンも高所作業車も使わず、ただロープだけで一本の巨木がクリスマスツリーに変身してしまうのだから、ツリーイング(ツリークライム)という技術もなかなか捨てたものではないと思う。
ただ木にロープを掛けて、ちょっと上に登って降りてくる、まあバリエーションとして樹の間に張った専用のハンモックに座ってまったりするといったことはあっても、ただそれだけでは魅力的なアクティビティとはいえない。
どんなことでもそうだけれど、アクティビティの範疇を越えて、何か他の目的があって、それをクリアするために技術と体力、知力を使うようになって、初めて本当の面白さが見えてくると思う。
装備は何を身につけ、どんなルート(枝を避けていくために)を取って登り、さらにどのようにセルフビレイして重い荷物を上げるか、それを地上でシミュレーションし、樹上ではシミュレーションでは予想できなかった事態に出くわして臨機応変に対処しなければならない。
なんとか、様々な事態に対処したあとで、装備の不備やルーティングの失敗、自分のスキルや体力のなさが見えてくる。そして、次はもっとスマートにこなしてやろうといろいろ勉強したりトレーニングしたりする。
『業務』となると、いろいろ厳しくもあるけれど、課題に立ち向かっていく面白さ、うまくいったときの達成感が桁違いに大きい。
業務とまではいかないまでも、たとえば、ツリーイングを他の目的のための手段としている人たちは、スキルも高いし、リスクマネジメントも人から言われるまでもなく理解している。
たとえば、熱帯雨林でフィールドワークをしている動物学者や植物学者は、数十mある樹冠までスルスルと登り、樹上では器用に体を確保してサンプルを採集したり写真を撮ったりする。ツリーハウスの製作者たちも、ツリーイング(ツリークライム)の技術を使って不安定な場所で作業する。
単なるアクティビティにしても、ツリーイングそのものが目的であっては、アピールポイントは普段とは違う視点で世界が見えるとか、風に吹かれて気持ちがいいとか、何か中途半端なお茶濁しのようになってしまう。
そこに、例えば枝先に付けたジオキャッシュを取りに行くとかということになると、俄然楽しくなってくる。
**イルミネーションに繋がる配線を結束して地上の配電盤へ**
この土日は、一緒にクリスマスツリーのセッティングをしたTMCA(ツリーマスタークライミングアカデミー)北関東支部の梅木氏が埼玉県桶川市の城山公園でツリーイングクライマーの養成講座を行うので、ぼくも便乗してちょいちょい手伝いをしながら、自分の課題研究に勤しんでいた。
今回の講習はマンツーマンだったが、受講生もじつは友人であり仕事仲間であった若林君だった。彼は地図出版大手の昭文社で長く編集をしていて、ぼくが毎年取材している「ツーリングマップル」の担当者でもあった。
彼は、10年あまり勤めた会社をこの秋に退職し、日本野鳥の会のレンジャーを目指すことにした。そこで、バードウォッチングや巣箱の設置、さらには生態調査などで使える技術としてツリーイングを身につけておくことにした。
講習が始まってみると、若林君は、さすがに目的がはっきりしているだけにモチベーションも高く、スキルの理解度も早い。また、いきなりフィールドの中でカワセミを見つけたり、様々な鳴き声を聞き分けてレクチャーしてくれて、どっちが講習を受けているのだかわからなくなってくる(笑)。
この城山公園はTMCAがホームグラウンドにしているフィールドだが、今まで鳥のことを気にしたことはなかった。それが、少なくとも11種類の野鳥がやってきていて、カワセミを筆頭にエナガなどの珍しい鳥もいることがわかった。そんなこと知ると、見慣れた公園がまた新鮮な場所に見えてくる。
ところで、ぼくの「課題」というのは、主にロープワークと樹上での体のさばき方だった。
ただ木に登るだけなら、体験会で使うアンカーヒッチとブレイクスヒッチ、フットループの組み合わせでいいのだが、作業をするとなると、このシステムでは登攀スピードは遅いし、樹上で作業をする際には両手を使ってロープにテンションをかけなければならず非効率的だ。
そこで、メインロープをランニングエンドにする基本システムではなく、ランニングエンドにスプリットテールという短いロープを使ったり、プルージックコードを使い、さらにマイクロプーリーなどを併用する。それらの組み合わせで、自分にもっとも合った組み合わせや結びは何かを、ひたすら研究していた。
そして、今度は、樹上で作業するときに、「リムウォーク」といって枝の上を渡っていかなければならないのだけれど、これもビレーの取り方や体の向きがどういう位置関係になれば安定するのか、いろいろ試していた。
樹は本来、影になる下の方の枝から枯れていくものだが、講習で使った樹も、練習で使った樹も上部の枝が枯れ、とても脆くなっているのが目についた。実習がてらそんな枝を剪定して、それもいいトレーニングにはなったのだが、こうした異常を目の当たりにすると、ほんとに自然が病んでいるという実感が募ってきて、暗澹とした気分になってしまう。
ちょうど紅葉の盛りで、紅葉狩りに訪れる人も多かったけれど、脆くなった太い枝の下を何も知らずに歩いている人がいるのも恐ろしい。
**紅葉を透かして落ちてくる日差しが気持ちいい長閑な講習**
**初級講習ではカリキュラムにない「リムウォーク」に挑戦する若林君**
**こちらは、たまたま立ち寄って、無理矢理ツリーイング体験させられたサイクリストの丹羽隆志氏。じつは高いところが苦手だとか......彼の主催するやまみちアドベンチャーでも、サイクリング+ツリーイングツアーを開催する予定。どうぞお楽しみに!!**
**メインロープの末端をランニングエンドにする代わりにスプリットテールをランニングエンドにするシステム。これなら途中に枝を噛んだりしても、簡単にシステムを解除して枝を避けて進むことができる**
**さらにマイクロプーリーを組み合わせることでワンハンド操作でロープのテンションを調節できるようになる**
**スブリットテールの代わりにプルージックコードを使う。こちらのほうが微妙なテンションコントロールが出来るが、ラベリングのときにコードがメインロープに食い込みすぎて、動きがかなり渋くなる。いろいろノットを変えてみて、ディスティルがいちばん食い込みが少ない感じ......ちなみに、カラビナのゲートが二枚とも同じ方向を向いているのは、あまりよろしくない(笑)**
**OBTツリーイングプログラム**
OBTでは、ツリーイング体験会から資格認定講習、企業研修、高木剪定など、随時受け付けています。
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