カルチャー [書評]

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Physics of the Future

文:リュウ・タカハシ
2011年7月9日

 この欄では未訳の英語書籍やDVDを紹介したことがある。『The Truth About Killer Dinosaurs』『The Survivors Club』(のちに和訳版『サバイバーズ・クラブ』が出た)、そして『bed in a tree』の三つだ。
 正直、誰にも読まれないんじゃないかなと思いつつ書いてたんだけど、どうやら案外読まれてるようで、つい先日も、
「今オススメの洋書あったら教えてください。今までの経験からリュウのオススメはいつもストライクだからね。」
ときかれたりしたもんだから、プチ豚気味でお調子者の僕はすぐに木に登ってしまい、またもや洋書のレビューを書いたりするのであった。

518tzNsqIHL._SL500_AA300_.jpg  上記の友人に薦めたのが、ちょうどそのとき読んでた『Physics of the Future: How Science Will Shape Human Destiny and Our Daily Lives by the Year 2100』
 「未来の物理学」というタイトルから分かるとおり、科学テクノロジーが今世紀末をどのように形づくるかを、われわれド素人にも分かりやすく予測、解説した本。勤務先(図書館)の同僚に薦めらるままに読みはじめたのだが、これが久しぶりの寝食忘却系傑作だった。

 企画自体は、ありがちだ。科学雑誌なんかしょっちゅうこういうのをやってる。「ネイチャーフォトグラファーへの道 壱歩目」にもちらりと書いたように、図書館勤めをはじめてから科学雑誌にひんぱんに目を通しているので、わざわざ本を読むこともないんじゃないかなぁ、とチラリと思ったことを白状しておく。
 が、アサハカだった。やっぱり雑誌ってのは「科学のプロ」じゃなくて所詮は「出版のプロ」が書いているものだし、短期間の締め切りにあわせて無理矢理記事にしているんだなってのを、ハッキリと痛感した。

 この本の著者は理論物理学の第一人者として名高いミチオ・カク教授。やはりトッププロはレベルが違う。
 彼は単に専門家というだけに止まらず、ディスカバリーチャンネルなどで科学解説者としても知られるだけあって、素人にも分かりやすく面白く解説するストーリーテラーとしての手腕にも並々ならぬものがある。各国の神話、宗教、映画などのたとえ話を駆使して夢のような最新技術を解説してくれるので、ページをめくる手が止まらない。
 正直、理系の科学者にこういう文章を書かれると、文系ライターの僕なんかどうすりゃいいのよと途方に暮れてしまったりするわけで......。

 この本の白眉は、著者が300人以上のトップ科学者へのインタビューを元に現在進行形の研究データに基づいて、未来予測している点。
 「コンピュータ」、「AI(人工知能)」、「製薬」、「ナノテクノロジー」、「エネルギー」、「宇宙旅行」、「富」、「人間性」の八つの項目を、現在の世界情勢やテクノロジー進歩の歴史と照らし合わせて実現時期を予想し、近未来(現在~2030年)、21世紀半ば(2030~2070年)、世紀末(2070~2100年)の三つのステージに分けて、「その頃にはこうなっているだろう」という未来想像図をみせてくれる。

 Viva New Zealand「バラ色の未来」に、子供に明るい未来像をみせてあげたい、ってことを書いたことがあるが、この本がまさしくそれだなと思った。製薬やナノテクノロジー、バイオテクノロジーの発達で、今世紀末には老化をコントロールして寿命も大幅に伸びるだろうという話や、コンピュータチップの小型化、廉価化(最終的に紙くずのような値打ちになるという)がどのように暮らしをかえていくかという解説、あるいは火力発電や原子力発電に変わる未来のエネルギーの可能性なんてのは、読んでて単純にどきどきする。

 ただし、カク教授は別に楽観主義者というわけではないので、明るい話題ばかりではない。今世紀中に解決できそうもない点にも言及してあるし、我々が破滅かさらなる発展かの大きな分岐点に立っていて、科学者にはその道を選ぶ力がないこともちゃんと認めている。
 僕が一番懸念しているのは、テクノロジーの急速な発達に、人間性の進歩が追いついていないという点(20世紀に人類は二度の世界大戦を経験し、毒ガス兵器や核爆弾を使った大量虐殺さえ行われ、10万年前の人類誕生から、人間性はさほど進歩していないことが図らずも証明されてしまった)だが、この点も「人間性」の章できちんと取り上げてある。
 おかげでバラ色の未来と破滅の分岐点が、かなりクリアになったような気がする。
 著者自身も、この本が議論のきっかけになることを期待しているようだが、楽しく読める上に、最後にちゃんと課題を残してくれるんだから、ホント大した手腕の物書きだと思う。

 最後の第9章は、それまでの八つの章で見てきた未来予測を一つにまとめた2100年の暮らしを描写する短編小説だが(なんとも多彩な物理学者だ)、実際にこんな未来を孫の世代に残してやれるかどうかは、我々にかかっているようだ。

 ちなみにこの本を読んでいる最中に、まさに予言通りの科学的発見、発明が報道され、鳥肌が立ったことが何度もあったことを付記しておこう。
 きっとあなたにも、
 「あっ、このニュースって『Physics of the Future』で昨日読んだの、そのまんまじゃん!」
っていう不思議な読書体験ができるに違いない。


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