コラム [その他]
四国発のクールプロダクツ"Tyrell"
文:内田一成 写真:皆見省史
欧米の小説や映画に現れる日本や日本人の姿は、ほとんどの場合、ぼくたち当人からすると滑稽に見えるものだが、逆に、デフォルメされ洗練された「日本」のカタチに、惚れ惚れしてしまうことがある。
古くは、タルコフスキーが『惑星ソラリス』の中で未来都市の姿を夜の首都高を疾走するシーンで表現したことや、ウィリアム・ギブソンがサイバーパンク都市の象徴として描き出した「千葉シティ」、「トーキョー」などが思い浮かぶ。そして、なんといってもシュールで猥雑な感じの「日本」が妙に格好良く映っていたのが、リドリー・スコット描くところの『ブレードランナー』の冒頭シーン。荒んだ未来都市の場末、怪しい屋台の親父が日本語で主人公のデッカードに話しかけ、上空を芸者の電飾を光らせた飛行物体が通過していく。
日本風でありながら、感性の高いポストモダンなクリエイターによって脚色されて、コスモポリタンでクールな雰囲気を色濃く出している。
Tyrellという名も、ブレードランナーで登場するレプリカントのメーカーそのもので、そのイメージもプロダクツに収斂した。
Tyrellブランドの生みの親であるアイヴエモーションの廣瀬将人氏は、まさにブレードランナー(正確に言えば、フィリップ.K.ディックの原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』)を意識して、自身が長年温めてきたデザインのバイクにこのブランド名を冠したのだという。
高松出身の廣瀬氏は、都市計画の専門家(技術士)として長年、都心の会社で働いていた。30歳を過ぎた頃から、片道5kmほどの通勤に自転車を利用するようになり、はじめは実用の自転車からMTBとなり、さらにロードバイクとシフトするうちに、自転車の魅力にのめり込んでいった。
東京のサイクリストのメッカである「多摩サイクリングロード」に自宅が近かったこともあり、本格的に長距離を走るようになる。
その頃から、自分でデザインしたスポーツバイクを作りたいと思うようになった。
2003年に故郷の高松に戻ることになり、漠然とした夢であった自分のバイクを製作することを決意する。
本格的なサイクリストではあっても、それまでバイクを自作した経験はなかった。はじめは、鉄工所で普通のチタンパイプを溶接してフレームを作ってみるが、これはうまくいかなかった。
そして、自ら試行錯誤を重ねながら、自分の求める機能を実現できるフレームビルダーを捜すうちに、理想的なパートナーと出会うことになる。協同でプロトタイプを造り、試走を重ねていくうちに出来上がったのが、今に続く"SZ"というモデルだった。
独特のディメンションのスマートなフレームにロングホイールベースのそのフォルムは、ミニベロとしては異質に映った。「軽快で取り回しも軽く、シティライド向け」のミニベロは、一方で、小径ゆえに高速になると安定感が失われる傾向にあり、スポーティさはスポイルされていた。ところが、このSZは軽快なミニベロらしさはそのままに、高い剛性のフレームとロングホイールベースが利いて、高速での安定感が大径のロードモデルと変わらなかった。先進的なフォルムは、まさにその性能を物語り、フォルムに魅かれて試乗した人は、さらにその性能に惚れ込んで、オーナーとなった。
2004年に市販を開始し、瞬く間にTyrellの名前は広がっていった。
日本では、普段は通勤やタウンユースのバイクとして使い、休日にはそのまま遠乗りに出掛けるといった自由な使い方をするオーナーが多いようだ。欧米でも概ね同様のオールラウンドかつスポーティなバイクとして受け入れられている。
面白いのは韓国や香港で、彼の地では、Tyrellはドリームバイクとしてサイクリストたちの憧れの的となっている。というのも、元々、ミニベロによるレースやツーリングが盛んだったこれらの国で、Tyrellに乗ったライダーが軒並み表彰台をさらったからで、Tyrellは「オールラウンドなミニベロ」というよりも先に、「高性能なレーサー」と認識されたからだった。
そんな人気につられて、今度は逆に日本や欧米でレースやスポーティなイベントにTyrellで参加するライダーも増えている。
「何より、自分でバイクを走らせるのが楽しいんですよ。四国という環境は、海沿いのフラットな道もあれば険しい山道もある。変化に富んだ環境の中を走るのは、この上なく楽しいし、製品のテストにも最適なんですよ」
さらには、中央から距離がある分、余計な雑音も少なく、研究に専念できるのも地方ならではのメリットだという。
何の先入観もなくメディアでTyrellのバイクを目にしたら、誰もがその洗練されたデザインから欧米のメーカーのプロダクツだと思いこむだろう。それが日本のメーカーであり、しかも四国高松に本拠を置くと知ったら、意外に感じるだろう。
だが、Tyrellを生み出した廣瀬氏に会い、自転車にかける思いを聞けば、この斬新なバイクが高松で生み出されたということに、すんなり納得がいってしまう。
個人的には、ブレードランナーの冒頭シーンやウイリアム・ギブスンがイメージした『日本的』ムードをさらに乗り越えていくようなクールな日本のプロダクツに、ますますファンになってしまった。
同じ四国愛媛の宇和島へ納入予定のベロタクシー。こんなクールな国産プロダクツが四国に......日本中に溢れかえったら楽しくなるだろう。
ミニベロのフレームワークを踏襲したフルサイズのロードバイクやコンベンショナルなレーサーも製作する。いずれ、ツール・ド・フランスでTyrellの勇姿が拝めるかもしれない。
プロトタイプのモデルを手に今後の展開を語る廣瀬氏。まだまだTyrellの鮮烈な前進は続きそうだ!!
■Tyrell■
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